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お仕事 山村での子育て 2019/12/02 1:52 pm

平地がない、公園がない、店がない、交通が不便。“ない”を言い出すときりがない、奈良県山間部の十津川村。

ここで子育てを応援する「山っ子プロジェクト」が始まり、遊び場情報マップを作りつつあります。

いい空気と水がある、人情がある、こだわって生きる人がいる、子連れで行けるちょっとした場所もある。

“あるもの”を探していくと、その豊かさが見えてきました。
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紅葉のきれいな十津川村です。

山は美しいですが、人の暮らしには厳しさを突き付けます。道路を通すにはトンネルが必要、崖に沿う道はすぐに土砂崩れにあう。

村内のあちこちに移動するには、幹線道路から脇道に入ると、道幅は狭く、うねうねとカーブが。



子育て中のママ達には、「村内移動でも怖くて行けない」場所が多くなります。

それでもこの村に居なくてはならない、この村に居たい、ということでみんな日々を過ごしています。最近は、「不便でもこういう村に住みたい」という移住者も増えてきました。

この村で暮らすなら、暮らしたいなら、もう少し能動的に良いことを探そう、お互いの情報を分かち合おう。山に暮らすママ達が、「あそこなら子連れで遊べるよ」という場所を出し合いました。

実際にはいくつかの候補のなかから、「私はここがおすすめ」というところを話してもらいました。この日集まったのは大字谷瀬のママさんたち。お隣の上野地の方も1人。

子連れですから、会議にはなりません。ママたちが座る回り、長い廊下を子供たちはキャーキャーと駆けまわったり、踊りを始めたりします。

でも、まずはこうして集まることができる場があるなんて、いいことです。集落にある一軒の民宿に皆さんが集まりました。

これが都会ならどうでしょう?子供スペースのある会議室を探して予約して、2カ月くらい前から抽選で場所確保なんてことでしょう。

ここにはお爺ちゃんお祖母ちゃんもいます。集まった子供たちみんなが兄弟のようでした。

さて、その遊び場情報マップのことはいずれお話するとして、今回、村を回っての気づきを書きましょう。

ママミーティングに参加したお1人が、子連れで安心の遊び場として、旧上野地小中学校グランドをあげました。

なるほど、立派な公園ではないですが、地域の人がグランドの草刈りをして、今もきれいに維持しています。「ここで虫取りしたり、自転車に乗ったり。寒いときは体育館でも遊べるの」と案内してくれました。

閉校した学校は山村につきものですが、そこは安全な場でもあるわけです。

「十津川村は給食が美味しいの」という声も上がりました。保育所、学校の給食がセンター方式でなく、人数分を丁寧にそこで作る。だから、評判がいい。

「給食に出る人気メニューの作り方を知りたい」といわれるくらい、愛されている味。「あのおかずまた食べたい」と思い出の味でもあるのでした。

この日うかがったある保育所、うちではなかなか作らない食べてみたくなるメニューが書かれていました。

その保育所の近くに「手作り公園があって、よく行きますよ」とママさん情報。歩ていくと、こんな看板がありました。

この公園?は元校長先生だった方が、手づくりで作ったそうです。あそび場の横には畑もあって、芋ほりなどもさせてくれるとか。

看板からも、作った方の温かな気持ちが伝わってきます。都会でこんな人が、こんな場所があるでしょうか?




ブランコ、滑り台、シーソー、丸太をボルトで繋いだ遊具が並びます。

作者の奥様がブランコに試乗して、「思いきっりこいでみて」とご主人から言われ、こいだところ、ブランコもろとも倒れた、という物語付き。

子供たちのためにとご夫婦が一生懸命になられている様子が、目に浮かびほほえましいです。

歩いていると、同行の役場職員のお知り合いから声がかかりました。「かつての剣道の先生」だそうです。「ミカン持っていくか?」と夏ミカンを、一つ二つと。

「5分時間ありますか?能面いていく?」と自宅にご案内いただきました。作業の小屋にはたくさんの彫刻刀、ノミ、ノコギリ、ナタなどが並びます。


東日本大震災の年、十津川村も大きな災害がありました。大雨で山が大きく崩れ、川が津波のように民家や施設を流しました。切り立った山を覆っていた杉、桧も山ごと倒れ流れました。

「退職後、何かしようと思っていた時に、たくさんの木がダメになっているのを見て、能面を作ろうと思って」と主は語ります。桧を四角く切り出してその塊を3年おき、面に彫っていくとのこと。いまや個展も開く腕前、セミプロの方です。

100以上の能面が並ぶお部屋、この個人ミュージアムに、子供を連れてきたら?泣くかな〜?でも強烈な思い出になることでしょう。

土曜の朝、毎週道の駅の駐車場に出るのが「にこにこ農園朝市」です。同じ地域の女性4人が、ご近所の野菜や漬物、手づくりのお弁当、お餅などを集め、ここで勢いよく売っています。

4人のおひとりは、「この朝市だって、子連れで遊びに来れる場。めはり寿司やヨモギ餅などの地元の味も買えるし、足湯でゆっくりもできるし」

「スエーデンログ」の名の、切り株もありました。丸太に切り込みが入っていて、桧なので真ん中に火を付けると焚き火になるのだそうです。

こういうのを真ん中に、火をつけて、子供たちと夜遊びなんていいなあ。「これ、クマが剥いだ木。珍しいのよ」と解説の声が。山っ子の近くには、クマも居るのでした。くわばらくわばら。

果無集落と呼ばれる、天空の集落へ行きました。「赤ちゃんでなければここも歩けるし、お弁当を食べるのにいいよ」と聞いたからです。

民家の横や田んぼのなかを、尾根伝いに小道が伸びます。世界遺産でもある「小辺路」と呼ばれる古道です。

歩く人のために、清水がためられ、花が添えてある。これだけでこの村の人たちの心が伝わってきます。「人が歩くのはイヤ、のぞかれるのはイヤ」どころか、「ようこそ、ごゆっくり」なのです。

朝市で買った「めはり寿司」にかぶりつきました。海苔が手に入らなかった時代、この辺でおむすびと言えばこの「めはり」。高菜の漬物でご飯を包んである。高菜の塩味で食べるおむすびです。

若いママさんが伝統の「めはり寿司」を作れなくても、朝市で買って子供と味わうことができる。

しかも世界遺産の景色を眺めながら。駐車場もトイレもすぐそこ、贅沢な遊び場です。

平谷地区の交流センター「いこら」に寄りました。温泉の豊富な村です。足湯はもちろん手湯もあります。タオルは近所の宿の方々が用意してくれています。

国道から入ったところなので静か。駐車場で外国人と地元の子供たちが遊んでいます。

ここでは村民が曜日交代でお店を出しています。この日は「日だまりカフェ」の名で、地元の大工さんがお店を開いていました。果無集落を子連れの遊び場として勧めてくれた大工さんです。

「世界遺産の石碑がある所より、さらに上ったところにもいいところがあるよ。車も来ない」とうかがい、再度行くことになりました。

このカフェでは、地元素材を使ったパスタや天ぷら、から揚げなどがある他に、大工さんハンドメイドの物が売られています。

十津川材でできた、赤ちゃんスプーン。子供にはこういう食器を使わせてあげたい。離乳食からこのスプーンで育つなんて、上質の食育ができますね。

皆さんのおすすめをうかがうと、この村は「子育てに良い環境」であることが浮き彫りにされてきます。何をもって良しとするのか、個人の生き方、価値観の物差しの持ち替えで、“ない”が“ある”に変わるのではないでしょうか?

コンビニや大きなスーパーはありません。でも、ママさんたちはネット通販を盛んに使います。不便はITで補いながら、村にある本物の豊かさの中で子育てしていく、これが正解でしょう。

日だまりカフェで買った、手作りワッフルの美味しかったこと。正直に焼いたワッフルが100円なり。それが十津川村なのでした。

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略歴

<野口智子(のぐちともこ)>
ゆとり研究所所長・NPOスローライフ・ジャパン事務局長
千葉市生まれ。東京でコピーライター、プランナーを経験。1977年静岡県に移り企画・編集プロダクション設立。
1992年ゆとり研究所を開きコンサルタント業務を開始。
ライフスタイルの提案、「一店逸品運動」による商店街の活性化、時間消費型観光おこし、人材育成などの分野で活動。
2000年からスローライフ運動を開始、2003年スローライフ・ジャパンを設立、現在、事務局長・副理事長。
2006年から活動拠点と自宅を東京へ。現在はスローツーリズムの提案、商品開発、地域観光の育成、都市と田舎の交流、移住・定住プロジェクト、“食”をテーマにしたまちおこし、などに力を入れている。住民参加の独自の楽しいワークショップが得意。
現在、地域力創造アドバイザー(総務省)、地域再生マネージャー(ふるさと財団)、国土審議会半島振興部会委員。