出雲そば

スローライフ運動

10月28・29日の「スローライフ・フォーラムin出雲の國」の準備で、何度もうかがうたびに出雲そばを食べています。

殻ごと挽いた強く香るそばが、小さな器三段に納まった「割り子そば」は有名。

先日はもう一種「釜揚げそば」も。そば湯と一緒に盛られたそばに、出汁をかけて食べる温かい食べ方はこれからの季節にぴったり。そばにも地域色がある・・・うれしい限りです。
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出雲の國・斐伊川サミット10周年記念のフォーラムです。出雲市・雲南市・奥出雲町・飯南町が対象エリア。斐伊川(ひいかわ)はその昔は氾濫を繰り返し、神話に出てくるヤマタノオロチはこの川のことではないかという説もあるほどです。

以前にも書きましたがこのエリアは、中国地方の製鉄の中心。江戸時代には日本の鉄の7~8割はここで造られていたとか。

砂鉄の含まれた山を削り、土を川に流し、その間に砂鉄だけを取り出しやり方。多量の土が流された斐伊川はいつしか土地より川底の高い、天井川になったそうです。

砂鉄はこのような「たたら場」に運ばれ、多量の炭の中で溶かされ、鋼になりました。

火力を上げるために、風を送るふいごのことを「たたら」といいます。雲南市菅谷にある高い天井を持つ高殿方式のたたら場では、はるか昔は人が踏んだたたらが、水力に置き換えられ、真ん中の窯に、左右からたくさんの竹の管を通って風が届く仕組みになっていました。

いつしかたたらを使った製鉄を「たたら製鉄」といい、作業やその土地までも「たたら」と呼ぶようになったようです。

たたら製鉄に砂鉄の次に大事なのは炭。たたら場を造るための地下工事にも湿気をとるために炭が敷かれたり、燃やされたり。

そして、ひとたび火がつけば4日間高熱の炎を確保するためにおびただしい量の炭が必要だったとか。たたら製鉄は、周囲の山々の木々をすべて炭にするほどの一大産業だったわけです。

もちろん森を再生しながらの作業なのですが、すぐには森は戻らない。まずは木を伐った後は、焼き畑にしてそばを植えたのだそうです。

ああ、やっとそばの話になりました。つまりは、出雲のそばはたたら製鉄産業の副産物でもあったわけです。

食べる文化はどこから入ったか?松江に信州松本から松平直政が藩主としてやってきたときに、そば打ち職人をそば処信州から連れてきたのだそうです。

それが“楽しむ出雲そば文化”の出発でしょう。外でお弁当代わりにそばを楽しんだので、四角い箱・割り子を何段も重ねて、そこにそばを入れて持って行ったようです。

それが、近代になって、四角い割り子は四隅が洗えず不衛生と、丸型の割り子になったいうお話が。形はどの店も丸とはいえ、木目を活かしたもの、朱塗りのもの、黒いものなどいろいろです。

普通3段ですが、出雲市役所近くのお店でいただいたときは、ほかのお料理も山と食べたので2段でした。

そばの殻ごと粉にするので出雲のおそばは黒い。更科そばとは違う、素朴で力強い表情です。

店主は「新そばが出る前の、今が一番悪い時。しかも今日は極端に暑い、いいそばが打てなくて・・」とおっしゃいます。「食べるほうは素人ですから、お気になさらず」などと言いながらいただくと、やはりさすがそば処、おいしいです。

ワサビは使わず紅葉おろしが出雲流。薬味を載せて、出汁をかけて。いただいた後の残りの出汁は、次の一段にまたかける。というのがお作法。

このおそばと一緒にいただく地酒のおいしいこと。そばには日本酒が合いますね。

実はここのご主人、元は市役所職員。そばが好きで好きでおそば屋さんになってしまった方でした。だから解説やおもてなしのツボも外しません。出雲のためにという姿勢が、満ち溢れています。


「割り子」に感動していると、こういうのもあるともう一つの名物が出てきました。「はいります?」とご主人。「はいります、はいります」と私。

「釜揚げ」と言うそうです。私の知る限りの釜揚げはうどん。茹でられたうどんが、桶の中のお湯にゆらゆらとあり、それをすくって出汁に浸けて食べるものです。

そういう感じかと思ったら、違う。茹でたそばがそば湯ごと器に。そば湯にまどろみながら?出てくる。そば湯ですからなんだかトロリとしている。

ここに薬味をのせて、出汁をかけていただくのです。ツルツルではなく、ズズッ、ズズッ、と重くすする食べ方。スープで食べるスパゲティに近いものがあります。

江戸っ子には嫌う方もあるでしょう。私はもともと、そば湯好きですし、ポタージュなども好き。冬はこれがいいなあ~。

翌日、訪れた飯南町。頓原(とんばら)というここにも、もちろん知る人ぞ知るそば屋さんがありました。「一福」というお店。生そばも売っていて、持ち帰れるし、送れるし。

昨夜、出雲そばの代表的二つの顔をいただいたので、ここでは海藻・アカモク入りの温かいおそばにしました。頓原漬けという福神漬け風のお漬物が、そばの間のいいアクセントでした。

時間があればそば打ちの様子をゆっくりと拝見していたかったのですが。残念。もしもこのお店が東京にあったなら、もっとおすまししていて値段は倍以上でしょうね。

奥出雲町、こここそがまた幻のそばが作られているというところ。おそば屋さんもたくさんあります。出雲大社前のように観光客がにぎわう土地ならともかく、一見、本当に田舎の小さな町にこれだけのおそば屋さんがあり、栄えていることに驚きました。

地元の方に聞くと、たいてい家には「割り子」の容器はあるとか。でも家では打たないで、最近は皆そば屋さんに食べに来たり、注文したりだそうです。

さっきお昼のおそばを食べてばかりだったのですが、やはりここでも食べたい。ベーシックな割り子を頼みましたが、スルスルっと入ってしまいます。うまい。とにかくうまい。

身体中が出雲のそばで清められたような気持ちで、東京に戻ってきました。この満腹・満足も、出雲のたたら文化といえるのでしょう。

ああ、このブログを書いていて思い出しちゃいました。おそば食べたいな~~~。