ちょっとしたこと
とある山里の集落に農産物加工場ができました。村おこしの助成金を申請し、それが叶って、建物ができ、ピカピカの加工機械も揃いました。
でも「ここで誰が何をするの?」ということに。
事を進めた男性陣は、「建てれば女衆が使う」と思っていた。何も意見を聞かれなかった女性たちはが「金がかかってると言われても、こんなに使いにくくては」と。
全国各地にありそうな話です。
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「加工場はできたけど、どうしたらいいのか、何を作ったらいいのかわからない」という噂を聞いて実際に伺うと、確かに新品のままの加工場がありました。
ステンレスの張られた壁がどうだとばかり輝いています。機械類もずらりと並ぶのですが、なぜか寒々しい。それはそうです、ここができてから本格的に使われたことがほとんどないからです。
詳細には触れませんが、機能しないままあるのは2~3週間ではありません。かなりの期間になります。
何でそんなことになったのか、少しずつ話を聞いてひもどいていきました。
簡単に言えば・・・・何かの助成金メニューに手を挙げた。その申請は、むらの皆と話す暇もなくかなり急いでの申請だった。だから、いつも何かと決めている男性たち数人で、ことを運んだ。
男性たちはこの際、必要そうなものはとにかく手に入れておこうと、いろいろな機械を揃えた。
申請の間に入った行政側は、むらの人々が出してきた案に助言しながら、申請が通るように最大限の努力をした。
アクロバットのような思いをして、見事お金がおりて、加工場が出来上がったのだった。めでたしめでたし・・・と、プロジェクトX風の話になります。
男性たちにしてみれば、「大変な思いをして、お金を取り、作った」加工場でした。
行政にしてみれば、「申請にあがってきた内容は、むらの総意と受け止めた」加工場です。
でも、女性たちにとっては「男の人たちが、なんだか勝手に作ってしまった」加工場なのです。
そして、そもそも加工場が必要だったのか?という話になりました。
「何か作って売れば収入になる」「仕事があればここで暮らせる」「新しい移住者も来てくれるかもしれない」「特産品を買いにわざわざ人が来てくれるかも」加工場へ向けての想いは、皆、このむらを何とかしたいというところからです。
だから村おこしのチャンスだと思って加工場を作った、動いた男性たちを誰も責められません。むしろ感謝しなくては、です。
そのくらい地方の小さな集落の維持は、切羽詰まっているのですから。
一方、加工場を作れば使うと思われていた、女性たちにもかなりの言い分があります。
よくよく聞くと、「加工場よりも、食堂、カフェのようなものならやりたかったけど」「何か、美味しい物を作って、来た人とおしゃべりして。月に一回でも楽しそう」ということです。
製造して、出荷して、お金にする、という加工場ではなく、作って、食べて、しゃべって、自分たちも楽しむカフェ。
女性たちは、工場ではなく、交流拠点だったり、自己実現や楽しみの場が欲しかったのです。
だから製造でなく、お店のような設えがほしいわけでした。「第一、ここには食器棚もないんですよ」なるほど、工場仕立てなので、カフェで使う食器の置き場など考えられていません。
いきなり長靴をはいて、何かを作れ、と言わんばかりの建屋です。働く人の休憩場所や着替えの場所がないのですから、語らう食事提供のスペースなどは新たに建てないとなりません。
男性と女性、むらを良くしたいという想いは一緒。でも具体は、大きく違っていたのでした。
それなのに「高い機械なんだから使え」といわれても・・。女性たちのやりたいことは、この加工場からは産まれそうにないわけです。
冷蔵庫を開けると、小さなお茶のペットボトルが1本寂しそうに冷えていました。「使わなくても電気は通していた方がいいから」って、いわれたからだそうです。
機械の説明書をまだ読んでいない。使うときが来たらメーカーさんも説明に来てくれるのはわかっているけど腰が上がらない。
今、女性たちはそれぞれパートで働いたり、農作業だったりで忙しい。本気で何かを加工して取り組む時間はないし、欲しくて欲しくてできた加工場ではないのですから、実際困るわけです。
時間だけが過ぎていき、加工場の存在は活性化どころか重荷になりつつあるのかもしれません。
「せめて、オーブンを一度使ってみない?」と誰かから声が上がりました。何人かで覗き込みます、「自分たちが食べるお菓子でも作ってみようか・・」。
ある男性が言いました。「使うのが無理なら、会合をこの加工場でやろう」、これは正解ですね。
足も運ばなくなったら、いよいよですものね。会合をして、ここで鍋でも囲んで皆でワイワイやって、その先に何か名案が出てくるかもしれません。
加工場で作る最初の製造物は、みんなのコミュニケーション、意思疎通なのでしょう。ここだけではありません、身近に似たような事例が沢山ありそうです。
遅くはありません、今からでも皆で話し合いましょう。女性たちも知恵を出しましょう。ない物ねだりではなく、あるもの活かしの方が建設的。
それにこれをいい経験に、むらおこしの現場でもっと女性たちが自ら意見を出さなくては。「聞かれなかった」、というのは子供のいいわけです。
使いだせば新しい道が見えてくる。毎月の食事会合や料理教室や一緒に作るおせち料理や、とにかく建物に血を巡らせましょう。応援しますよ~~~~。