「乙」というところ

ちょっとしたこと

「乙」、ゼットでも、オツでもなく、キノトと読みます。新潟県胎内市の海に近い地域。

ここには「どっこん水」という名水が湧き、「乙まんじゅう」という歴史ある、正直な味の銘菓があります。

このお饅頭屋さんの若きあと取り11代目を見ていると、「乙」という字が、種から芽が出る様、若い様子、という意味があるということに納得します。

いい地名はいい人も育てる、ということでしょうか。

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上の写真が「どっこん水」です。乙にある「乙宝寺」に湧きます。皆が汲みに来るところはここから少し離れた別の場所、全く情緒のない汲み場ですが、とにかくおいしい水でした。

弘法大師が独鈷で突いたところから湧いた水なので、この名があるそうです。

この寺の門前通りにあるのが1804年から続いている「乙まんじゅう」。冗談でなく地元の子どもたちは、ゼット饅頭などと呼ぶそうです。11代目、久世俊介さん(26歳)が、話してくれました。

麹と餅米で作った皮で、手作りの餡をサッと包む。手の熱が伝わると麹に影響するので急いで急いで。それを炭火で温めながら発酵させる。そして蒸す。

発酵しているので皮に多少の酸味があるのが特色。昔と同じ作り方で手作り、季節や日によって、発酵時間や蒸す時間は皆違い、機械化は無理。

手間がかかり、日持ちしない。つまりは、口を運ばなくてはならない「乙」の味なのです。1日経てば固くなる、発酵や蒸し具合でふわっと膨らまず、へしゃげたものもできてしまう。『しかみ』になるというそうです。

そんな「乙まんじゅう」ですが、根強い人気がある。これに久世さんは一工夫しました。胎内市は米粉の産地、純粋の米粉パンもあります。そのパン粉を使い、揚げまんじゅうに。

これが美味しいのです。
「かといって、作り置きはしたくないんです。お客様のお顔を見てから揚げて、熱々を召し上がっていただきたいので」と胸を張ります。

美味しい水と、伝統の技、さらに揚げる工夫で、「乙まんじゅう」はさらに美味しくなったのです。最近お子さんができた久世さんですが、まちおこしなどの活動に熱心で、「会合が多くて、子どもを風呂に入れられなくて」と笑います。

伝統の店に、フレッシュな風が吹いているようなさわやかさでした。

「乙」地区に新しくできた集会場に寄りました。瓦のどっしりとのった木造です。入ると木の香り、向うに見えるのは広がる田んぼです。こんな建物の大広間でヨガや太極拳など、気持ちいいでしょうね。汗を書いた後はもちろん「どっこん水」です。

大声で特色を宣伝したり、肩に力を入れて地域おこしをしなくとも、昔からの自信の味を当たり前に守り、今風に少し工夫する。水や田んぼの美しさをいつも身近に感じ、讃えている。そんな「乙」がうらやましくなりました。