医者殺し

美味しい話題

なんだか凶悪事件のようなことばですが、鳥羽市の離島で体験した魚の食べ方です。煮魚を食べた最後、残った骨に熱いお湯をかけてそのスープを飲む、こうすると魚のカルシウムや栄養をとことん食べて、身体も温まり健康になる。

だから医者いらずですごせる。ということから、この名があるそうです。そういえば昔、祖母が「もったいない」と、こうしていたっけ・・思い出しました。

鳥羽市に仕事に通いながらこの“医者殺し”の話は、何度も聞いていました。いささかリアルな言葉なので上品?に、“医者いらず”という言い方もあるそうですが、あくまでも、地元では“殺し”がポピュラーです。


煮魚なら何でもいいのかというと、サバやアジなどの青い魚は生臭くてダメ。ある民宿で「今日、“医者殺し”をしたいのですが」とリクエストしたら、「今日はそういう魚があがってないから、“医者殺し”は無理だね」と言われたことがあります。

それにしてもすごい会話なのですが・・。

で、ついに先日、菅島(すがしま)で“医者殺し”体験となりました。この日の煮魚はメバル、これはできます!少し甘めに煮たお魚は白いご飯がすすむすすむ。

それでもう満腹なのですが、最後のクライマックスいよいよ“医者殺し”です。「“医者殺し”するなら熱湯がいいから」と民宿のお兄さんはお湯を沸かして運んでくれます。これもまたすごい会話。

お皿だとあふれるので、ご飯どんぶりに骨を移し、お湯をザーッと。湯気の中に魚の油がテラテラ浮いて、骨にまだ残っていた身が離れます。すするとまあおいしいこと!!濃厚なスープというか、もうひとつの逸品料理というか。

「風邪の引き始めは、“医者殺し”して、身体あっためて寝れば治る」「まあ、魚の命をもらうんだから最後の最後まできれいに食べて、という弔いの気持ちもあるんだね」とお兄さん。

ありがたい説明をしてくださるのですが、このスープをご飯にかけて、ザクザク食べてもおいしいくって、満腹のはずの私はすっかり“医者殺し”に夢中になってしまいました。

翌日、お隣の神島(かみじま)へ渡り、夕飯。この日はカサゴ、これもできます。当たり前のように“医者殺し”をしていると、ほかのテーブルのお客さんが「津でも、“医者殺し”する?」と会話しています。


伊勢と津の人が、ヨットで神島へ来て泊まっていたのでした。そこへカサゴの煮つけが出たので、こんな会話になったらしいです。すかさず聞きました「伊勢でも“医者殺し”しますか?」「ええ、しますよ」民宿客同士、すっかり話が盛り上がったしだいです。

お魚への感謝と自分の健康のためにする“医者殺し”、こんないいことなら皆さんどんどんしましょう。