牡蛎焼き

美味しい話題

あるお宅の、牡蛎焼きにうかがいました。都会の洒落たオイスターパーティーとは別世界です。

ジャガイモ農家、作業小屋で火を起こし、地元の牡蛎を食べ
続ける。コンテナがテーブル・椅子。

参加者はおじいちゃん、パパ、ママ、子ども3人、パパの職場の若い衆等々が加わり17人。

ワイルドですが人間関係があったかい、食物は地元産。日本中がこうなれば未来はある、と思いました。
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雲仙市です。築43年、リフォームを繰り返したジャガイモ農家。67坪の家。車が14台止められるスペースがあるなんて!そもそも東京と比べるとレベルが違います。だから子ども達は走り回り、大声をあげ、客人もキャッチボールなど始めてしまう。すべてがのびやかです。


台所と食堂。この日はおばあちゃんがすこし具合が悪く病院でしたが、いつもはここに7人の家族が大騒ぎでご飯を食べているのでしょう。私を招いてくれた主は、「昔の家みたいに大家族でワイワイ暮らしたい」とおっしゃる。なるほどその通りなのでしょう。


仏様のある座敷。ここからガラスを開けて中学生の長女ちゃんが「じっちゃんの携帯あったよ~」と外のパパとじっちゃんに叫びます。じっちゃんが探していたのでしょうね。

お邪魔しますとリビングに入ると、ボーイッシュな次女ちゃんが話しかけてきます。「私ね、ミカン大好きで一度に10個食べるの。だから2個にしろって言われた~。このミカン美味しいですよ、どうぞ」

こちらは「あ、私、初対面なのですが。あ、急に仲良しの仲間にしてもらえたようで・・・」という気分。お客様に対し、もじもじする雰囲気は皆無の少女に、こちらの気持ちが解放されました。

子どもたちが小さい頃のお祭りの時の写真でしょうか。


あれれ?台所ではママさんと長女ちゃんが私のお土産の動物パンにぱくついて、ポーズを取ってくれています。


私の住んでいるアパートの4~5倍はありそうな納屋?倉庫?スペースに行きました。何に使うんだろう?想像できない農機具、機械がいくつも並んでいます。ロープだけでも何種類もある。これだけのものを使いこなして、じっちゃんは、そして休みの日のパパさんもジャガを作っているのですね。

末っ子の長男くんが何かやっています。さっきは納屋の窓辺の金魚の世話をしていました。今度は植木鉢を洗っているようです。

「その隣の、鉄でできたテーブルみたいのは何?」と私が聞くと「これ?これは~ばっちゃんの」「ばっちゃんの何?」「う~ん、これでばっちゃんが魚切ったりね」

要は名前はないようで、次女も長女も「それは?ばっちゃんの」と答えます。昔からばっちゃんが便利に外仕事に使ってきた物なのでしょう。

さあ、牡蛎焼きです。火を起こしましょう。パパから炭の世話を命じられた長男くんは、1人、団扇を両手に踊るように扇ぎ続けています。


台所では、パパの職場の若い衆が、ママの指示を受けながら、材料を刻んだり、ピザ生地を広げたり。このうちではこういうことが当たり前なんですね。子どもたちは「○○兄ちゃん」「○○さん」と親戚のように呼びます。


牡蛎焼きが始まりました。焼き役は長男くんです。17人が次々食べていくのですから忙しい。でも大張り切りです。


「パパ~焼けたよ」「ばか~汁こぼすな~」素手でつまんだりして熱くないのかとこちらは心配するのですが、長男くんのナイフさばきは大したものです。


それにしても巨大な牡蛎です。同じ市内、すぐ近くのまちの海で獲れる、これをキロ単位で箱で買う。豪快です。おおきいのが焼けると「焼けたよ~」と子どもたちがじっちゃんの座るコンテナに運びます。


雲仙にはこぶのできる「こぶ高菜」という伝統野菜があります。漬物で食べるのが主ですが、新鮮なものは生が美味しい。シャキシャキした歯ごたえがたまりません。牡蛎を包み、肉を包み、なんでもあいます。


ため息の出るようなお肉は、この日参加の農業青年の知り合い酪農家の牛。知人の牛肉を「すごいな~、さすがだな~」と眺めていました。

ばっちゃんが明日にでも家に帰れそうで、じっちゃんはホッとしていました。皆もです。だからじっちゃんはビールも飲んじゃってます。

高菜で包んだ肉をほおばる長女の後ろで、ママがピザをじっちゃんに切っています。

長男はひたすら焼いています。次女が「じっちゃん、肉だって」と注文を伝えます。パパはお仲間と話しながら、飲んでいます。

広い納屋のコンテナに座り、庭で火を起こし、地元の新鮮なものをひたすら食べる、大声で笑う。

何かテーマのある集まりでもなく、何かを話し合うでもなく、ただただ「美味しい」「旨い」を連発し、ただただみんなが微笑んでいる。

17人が小川のようにサラサラと動き、ご機嫌にしている時間。

「パパ~~~」「ママ~~~」「じっちゃ~~ん」と叫びながら、牡蛎焼きスタッフとして走り回る子どもたちにまみれながら、私は幸せでした。

世界中がこんなだったらいいなあ、と混ぜていただいたことに感謝しました。