凍み餅
その存在は知っていましたが、造るところを見せていただき、さらに地元で食べることができました。
福島県古殿町「ふるさと工房おざわふぁーむ」の小澤ご夫妻が郷土の味を消してなるかと頑張っています。
「ごぼっ葉」という山菜を混ぜて餅を搗くと、お餅が凍り、乾燥してもボロボロにならない、昔からの知恵です。
寒さと時間、手間が美味しさをつくる、究極のスローフードでした。
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「おざわふぁーむ」です。もとは酪農をされていたそうで、いまこの建物は農業体験工房のように使われています。
泊まったり、米づくりをしたり、郷土料理を習ったり。牛を育てていた場所が、人を育てる場になっています。
近づくと赤いネックレスのように下がっている干し柿がきれいで、おいしそうで・・・。
その横に下がっている白いものが「凍み餅」でした。
一見、凍み豆腐かと思うのですが、実は白い紙でお餅を包んであるのです。
小澤啓子さん。訪ねると、この夜私たちがいただく懇親会用の郷土料理を調理中でした。
「夜にうかがうんですが、昼の凍み餅を干している様子が見たくて寄りました」と私が声をかけると、「見て、見て~」と「凍み餅」づくりの途中を見せてくださいました。
「凍み餅」に欠かせないのが「ごぼっ葉」。学名は「オヤマボクチ」という山菜の一種。
これを夏のうちに採って乾かして保存します。一見、フキの葉っぱの乾いたもののように見えます。
この葉っぱの裏側にはヨモギのように細かい産毛のようなものがあり、これがお餅のつなぎになるそうです。
「いい、これをこうして手で揉むでしょう。繊維だけはこうして残るの、粉々にならないの」と、小澤さんが実験してくれました。
カラカラに乾いた葉っぱなので、強く揉めば粉々になるはずです。それが蜘蛛の巣の塊のように、モハモハがしっかり残る。
これをお餅に混ぜて搗くのですから、お餅はしっかり繋がる。鉄筋入りのコンクリみたいなもんですね。
工房には「ごぼうっ葉」入りのお餅がたくさん搗かれ、型に流されていました。
これを切り分けて、一枚ずつ紙に包む。切るのも包むのも大変な作業でしょう。
包み終えたものを紐で繋げて、水に浸ける。たっぷり水をしみ込ませてから吊るすのだそうです。
外に吊るしたお餅は、寒さで凍り、それが昼には溶けて水が抜ける。その繰り返し。フリーズドライとはこのこと!昔の人が考えた保存食ですね。
小澤さんが見せてくださいました、昨年の「凍み餅」。よ~く乾いています。
寒いだけでなく風がないとダメ、40日くらい吊るすとか。乾ききった「凍み餅」は実際何年も持つそうです。
一方これは「ごぼうっ葉」の入っていない普通のお餅。
上の方にヒビが入っています。つなぎがないとこうなるんですね。
さて、「凍み餅」は食べるときにも時間がかかる。乾いて眠っているお餅を目覚めさせる?には、5時間以上水に浸けないとダメ。
でも、水に浸ければ本当に普通の搗きたてのお餅と変わらないようになるのですから、驚きです。
水を得たお餅はぐっと膨らんで大きくなります。それを切り分けて油少々のフライパンで焼く。
焼けたお餅は砂糖醤油を絡めれば、出来上がり。
ほんのり「ごぼっ葉」の香りがする「凍み餅」。これは本当に美味しかったです。
普通のお餅とは違う、もっちりしっかりしていて、かたくはないけれど柔でもない。寒さに耐えて一度乾くと、餅が厳しい修行を耐え抜いて、強く存在感あるさらに美味い物に変わるのでしょうか。
ただのお餅じゃないのです。
私の目の前で、地元のお若い方は3つ召し上がりました。
小澤昌男さん。お酒を飲みながら昔の話をいろいろしてくださいました。
この地の人が味わい深いのは、寒風がつくった顔、人柄なのでしょうか。いつまででも一緒に居たくなる、懐深い温かさです。
「凍み餅」を東京で食べるのもいいですが、やはりこれは小澤さんご夫婦に米づくり、「ごぼうっ葉」採りも教わり、「凍み餅」づくりの仕事を何度も通って手伝って、最後に食す。そんな時間を過ごしたいものです。
古殿町に通うほどに、寒風に震えるたびに、きっと私も味わい深い人間になれるかと思いました。
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