かたつむりの哲学

美味しい話題

「竹田かたつむり農園」、雲仙市国見町と島原市有明町に畑を持つ農園。大量生産、大量流通に適したように、品種改良された野菜でなく、その土地在来の固定種の野菜を種から育て、種を採り、という種どり農家です。

「ゆっくりと確実に持続性のある農業をしたい。カタツムリの渦は循環を表しています。」と農園のロゴマークを説明する竹田竜太さん、真理さんのお話を聞きました。

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「竹田かたつむり農園」のことは以前にもご紹介したことがあります。でもまた今回お話をうかがってどうしても書きたくなったのでした。
こちらが以前のブログです。
http://noguchi-tomoko.com/modules/yutoriaruki/details.php?blog_id=483&date=201809


今回は、雲仙市で進行中の「雲仙人(くもせんにん)プロジェクト」の中で、雲仙市で頑張る人の話を聞くサロンでした。

竹田さんは雲仙市国見町と島原市有明町に、合計田んぼ六反と畑六反を抱える農家です。「60品目以上の野菜を、約9割は種どりで作っています」とのこと。サロンのテーブルには、竹田さんの採ったいろいろな野菜の種が瓶に入って並びました。野菜の種など、スーパーにも売っていて珍しくないと思いがちですが、売られているもののほとんどはF1という一代で終わってしまうもの。効率的に作物を作るために、今の農業は種もできない野菜を作るようになってしまったのだそうです。


そもそもなぜ竹田さん夫妻は種どり農家になったのか?もともと竜太さんの実家は国見町で40年来イチゴやメロンを減農薬で作る農家。竜太さんは教師をしていましたが、父親が元気なうちに、と帰り、家業を手伝います。「なんとなく親父のやっている農作業になじめなくて、合わなかったですね。モヤモヤしながら手伝っていました」

同じく教師だった真理さんと結婚し、新婚旅行の時、たまたま宿にあった雑誌に雲仙市吾妻町の種どり農家・岩崎政利さんのことが載っていました。「食い入るように読みましたね。地元にこんな素晴らしい人がいたのかと驚きました」早速、竜太さんは岩崎さんを訪ね、「食べてその美味しさに感動しました。そして岩崎さんの種にまつわる哲学やロマン、ストーリーにも感動して、こういうことが持続可能な農業なんだと思いました」と衝撃を受けます。


真理さんの応援もあり、竜太さんは新規就農制度を利用し、研修を経て独立、いま3年目になります。竹田さんの畑は水道、潅水施設のない畑。そこで農薬・除草剤を使わずに有機栽培で作物を作るという厳しい農業です。

「だから自然を味方にしないとできませんね。種をまくタイミングなどは、月の満ち欠けを見ながらです。引力で水分が上下するのでそれを利用する。定植もそうです。僕が野菜を信じてやっているので大丈夫、真夏に10日間雨が降らなくても定植します。種を大切に農業やっていると、少々の環境変化も野菜は平気、強いと分かってきました」


普通の農家と違うのは、生産から販売も自分でやっていること。「パンフレットのデザインや野菜の食べ方の説明、SNSを使って日々の発信など、そういうことをすべて妻が広報としてやってくれているので助かります」と竜太さん。

そのSNSで「明日は野菜の販売日!」と告知しながら、真理さんは毎週近くのレストラン横の駐車場で販売をしています。(毎週火曜日12時30分から15時、島原市湊新地町450-1 洋食と喫茶「コスタ(升金の蔵)」横駐車場で)常連さんは増え、セット野菜の宅配や、夏場のレストランへの宅配なども定着してきたものの、まだまだ経営は厳しいとのこと。


「でも経営よりも大切なのは将来、100年先も続けられる農業を目指すことなんで、教育活動に力を入れています」お二人とも教員だったことが幸いし、そのネットワークで野菜を育てる指導を子どもたちにしてほしい、と依頼があるそうです。近くの保育園と契約して種から蒔いて種まで取るという活動。年長さんが種を採ったら、その種を翌年の年長さんが蒔くという具合です。夏は平家キュウリ、冬は三浦大根とコブ高菜。「小さい頃から本物野菜を食べて、覚えてもらい、味覚を育てたいんです」

高校や養護学校、長崎大学との交流も。ジャガ堀体験、稲刈り体験なども。伝統野菜、種どり農家のことをそもそも皆が知らないので、理解には時間がかかります。「それにジャガ堀でも、今掘れるというときと、天気と、お客様と、3つの都合が合うのが難しいんです」と真理さん。


「日本は戦後負けてアメリカナイズされて、人口的に作ったF1種が世の中の野菜や稲となりました。東北でも東京でも大根はすべて青首大根なんて嫌じゃないですか」と竜太さん。種を守ることは地域の伝統文化も守ることになる、と語ります。

で、どのように種を採るのか説明がありました。例えば、大村の「黒田五寸ニンジン」。長崎の出島にオランダから400年前に入って来て、以前はニンジンといえばこれだったのが、割れやすい、日持ちしないということで日本中がF1の物ばかりになりました。「黒田五寸ニンジンは、糖度も高く風味があり、一番美味しいと思うのですが。うちで12月からは販売しますから食べて見てください」


ニンジンはセリ科なので綺麗な花が咲く、写真を見せていただき皆からため息が出ます。「うちのニンジンの花にはミツバチやいろんな虫がたくさん来ますよ」花の後にできたさやも見せてくれました。梅雨時にハサミを入れて、2カ月乾かしたものです。振ると種が落ちる。その種には細かい毛が生えていて、そこ産毛が水分を吸って発芽するものの、種まき機では邪魔になる。なので手で揉んで毛を落とす。

「これを師匠の岩崎さんは種を“あやす”といいます。この種嗅いでみてください」とニンジンの種の入った瓶が回りました。さわやかな強い香りがします。ニンジンの種を、初めて見ました、嗅ぎました。


しかし、全部から種を採るわけではありません。これが大変なところ。一度ニンジンを収穫するために抜いてみて、その中から種を採るべきものを選び、その選抜された一度抜いたニンジンを別の場所に植え直して、そこで花を咲かせ、種を採るのだそうです。他の物と交配しないように石垣のあたりに植えるのだそうです。

形のいいのを選ぶのかというとそれもまた違う。「人間と同じです。エリートばかりじゃダメなんです。スマートなのもの、がっしりしたもの、いろいろな物を選抜して種を採らないとやがて絶えてしまう」なるほど、これが種どり農家の思想なのでしょう。収穫以外に、種を採るための畑がまた必要なので、広くないとできないのだそうです。


雲仙を代表する固定種のコブ高菜は、戦後中国から持ってきた種、コブができるのが特徴で持ってきた方が「雲仙コブ高菜」と名付けたそうです。それが、やはり収量の多い他の高菜に負けて消えて行ったのを、岩崎さんが種を探し出して復活させたそうです。絶えないようにプロジェクトチームを作って栽培し、漬物にし、皆で取り組んでいるそのことをイタリアのスローフード協会で発表したところ賞をいただいたのでした。

「雲仙コブ高菜は漬物だけじゃなくて、むしろ生食に向いています。焼いてもいいし、スープにしても美味しい。コブのところが特に美味しくて天ぷらにいい。種は辛いのでマスタードになります。とにかく生命力が強いんです」現在、少しこの漬物の活動の勢いがなくなっているのが心配、という声が参加者からありました。「高菜という名だったので漬物にしがちですが、雲仙菜なんて名前だったらもっと全く別の展開でこの野菜は広がったと思いますね」と真理さん。


なるほど、高菜は漬物にするという思い込みを一度外して考えれば、昔からの野菜も新しい出番があるはずです。「うちはこれからも大事に作っていきますよ」と竜太さんは自信をもって言います。食べる側が漬物以外の使い方で、栄養野菜として柔軟な発想で使っていけばいいんですね。

試食にいただいた“「福島カボチャ」をオーブンでただ焼いただけ”の美味しいこと。実に甘い!「このカボチャ、大きさがちょうどいいんですよ。家族の人数が減っているので小さめで」と真理さん。「万願寺しし唐」もスイカも甘酒も、美味しくいただきました。とにかく味が濃い。

竜太さんが先日東京に行って種どり野菜をプレゼンテーションした時に、専門家から「主役は野菜、あまり調理せずに素材の味をそのまま活かして食べたほうがいい」というお墨付きもいただいたそうです。


今後は?の質問に、「いまは2人なので、将来は何人かでシステム化して、たくさんの方にセット野菜を提供し、安定した暮らしをしたいです。今も日曜は休みにしていますが、若い農家の目標にならなくちゃと思います」と竜太さん。

「皆さんに種どり野菜のすばらしさを、感じて、体験して、買って、広めてもらいたいです。野菜の値段を考えるとそれだけでは経営的に無理。国見で古い土間が残っている家があるので、そこを拠点に観光農園というわけではないですが、畑をめぐってもらい、そこでストーリーを話しながら団体さんを案内して、作業体験もしたり、野菜料理を学んだり、そんな場を考えています」と真理さん。


お2人の農園を支えるにはどうしたら?との参加者の質問に「うちの野菜を定期的に買っていただき、料理して食べてほしい。今、皆が料理をしなくなったから、もう一度丁寧に、こころをこめて料理してほしい。それが健康な日本社会を創ると思う」とのことでした。

クール便で個配は送料が高くつくので、5セット分を1つでまとめて頼む方法があるそうです。これなら5家庭で分ければ送料が安くなるので安心。そのチラシと、野菜を皆がいただき、買い物して帰ったサロンでした。

近い将来、種どり野菜ツーリズムとして、全国から竹田さんの野菜を食べに、人が来るようになるはずです。種のストーリーを聞き、味覚をを育て、100年先も続く農業をかたつむりのようにゆっくり一緒に作っていきたいものです。
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