炭と羊と

ちょっとしたこと

北海道池田町で二人の女性と会いました。

家業の炭屋を結婚後も続けていたものの「自分の好きなことをしたくて」と“魔女の炭屋”の名で、カフェと炭のアレンジメントを売る店を始めた方。

もう一人「羊と羊毛に魅せられて」関西から十勝の地へ移住。羊の毛をフエルト化させて、部屋を丸ごと包み込む巨大な現代アートを作る方。

池田町の自然の中で、ともに大きくのびやかでした。

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炭屋さんを突然訪ねると、計良文子さんはわざわざ出先から帰ってきてくれました。


「みてみて炭を出すときにはこんなに真黒になるの、これが私でこっちが孫!」店内の大きな写真で説明が始まります。


日本最大級の炭焼き窯を持つ本郷林業が本来の家業ですが、計良さんは「だた炭を売るだけでなく、もっといろいろなことをしようと思って。私、魔女が好きなの。何でもできる、私も魔女になろうと思って」

ここを「魔女の炭屋さん」と名乗るようになります。花も割り箸も炭になって、美しくアレンジされて売られています。

和歌山から指導者も招いて備長炭の作り方も教わり、「十勝備長炭」を作ったそうです。茶会もやりました。

さらに今は、その炭を体験プログラムにして、炭焼き窯に入ったり、炭を使って名物「豚丼」を作ったり。そんなことも始めました。

「この前来た外国のお客様がすごく喜んだの」


細かい炭の量り売り、木酢液の暮らしのなかでの使い方アドバイスなど。燃料の炭が、計良さんの発想でおしゃれなものに変わっています。


カフェの上は計良さんのアトリエ。「この上からの見る下の眺め、いいでしょう」

これから炭を使ったいろいろな教室や体験、おしゃべりがここで展開されていくのでしょう。


計良さんの後ろでは、90歳のお父様が分厚い本を読みながらコーヒーを飲み、お母様が届いた長なすを私に見せてくれます。

「父の頭の中はアイディアがいっぱい詰まっているの、若いですよ。母は肌の手入れに木酢液を使ってるんです」

う~ん、魔女の家族は知的でお若いのでした。


続いてうかがったのは「スピナーズファーム タナカ」というお店。花に囲まれた可愛いお店の裏には草原が広がり、たくさんの羊がのんびり草を食んでいます。

お店のなかは、羊一色。羊を学ぶいろいろな貼り紙やコメントはトイレの中まで。そして、羊の毛を使った小物から毛糸、織物、編み物。可愛いもの、素敵なものがたくさん並んでいます。

この羊の形のブローチを作っている人に、会いたかったのでした。村上知亜砂さん、こうした小物も作りますが、本当の作品は大きくそしてアートなのでした。


お店の隣の棟に作品があると聞いて入ると、びっくり!

羊の毛が薄く漉いた和紙のように、レースのように繋がり広がり、そこに藍や玉ねぎ、セイタカアワダチソウで色が入り、これまで見たことのない、不思議な作品が展示されていました。

作品の力強さと奇妙さに比べて、ご本人は実に控えめに笑います。

もともと大阪の人だったのが、美術系の学校に行き、棕櫚やからむしなど、繊維類に目覚めていったそうです。

そしてバイクに乗って全国を旅していた時に、十勝に出会う。そして羊と、羊毛に魅了されたのでした。


そして、北海道に移住を決め、札幌を経て、だんだんと夢をかなえ十勝へ、池田町に住むようになりました。

「その間、このスピナーズファーム タナカを始め、この土地の人たちに本当にお世話になったんです。今もお世話になっています、みんな本当にいい人たちで」


「今住んでいるところが広くて安くて、大きな作品を楽々作れます」村上さん、普段は事務の仕事をしながら、住まいに戻れば羊毛にまみれて創作の毎日なのでした。

人を包む、部屋を埋める、壁を丸ごと覆うような羊毛作品は、これまで全国各地の現代アート展に出展されています。

これほど羊毛を使う大きな作品を作り続ける以上、彼女は池田を離れないでしょう。「広い空間が手に入るだけでなく、羊がたくさんいて、毛も安く手に入るんです」

いまチャレンジしているのは、舞台衣装。これはレンタルドレスになります。

そして「清見染め」。池田の清見に湧く温泉を媒染に使い、地元の草で染めた羊毛で小物が試作されていました。池田の新しいお土産が生まれそうです。

お二人に会うと、まちづくりなどは、女性たちのやりたいことをただのびやかに実行させてあげれば、それで転がっていくのではと思えました。