おかえりそうめん
長崎県南島原市は、来訪者を「おかえりなさい」と迎えるまちだそうです。山奥の廃校利用の「南島原食堂」で16種類のそうめんが食べられると聞き、出掛けました。玄関でまずは盛大な「おかえりなさい!」の声。最近こうして迎えられことがないなあ・・。
出てきたのは、和・洋・中、様々なアレンジのそうめんが一口ずつ。どの器からも心から「おかえり」といわれているようでした。
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長野小学校塔ノ坂分校を改修した食堂です。昔はこの小さな校庭を子供たちが走り回っていたのでしょう。
校庭の端っこに、タイヤを利用して作られたブランコがありました。私の体重で大丈夫かなあ、とおそるおそる乗ってみます。大丈夫、ギ~ギ~とこぎながら空を見ると、もうすぐ雨が来そうな気配。こんな時、あわてて家に帰ると母が「おかえり~」と迎えてくれたものです。
ユリの花の咲く玄関を入ると、本当に「おかえりなさい」の声が。
懐かしい木造の教室、学習机が食堂のテーブルです。中年のご夫婦、若いカップルなどが同じく「おかえりなさい」と迎えられています。三角巾とエプロン、マスク姿の地元の女性がテキパキ動きます。皆が頼むのはこの「おかえりそうめん」。
待つこと少し、運ばれたのがこれです。きゃ~かわいい。さてどこから食べましょう?ふつうのめんつゆ味のもの、ジュレのようなものがかかった洋風のもの、そうめんサラダ風のもの、ジャージャー麺のような味のもの。味は16種類ですが、使われている素材は何十種類にもなるはずです。おままごとみたいで楽しい!
これがメニューですが、少しずつ季節で変わるとか。
わんこそばというのがありますが、あれは味は同じで数を食べるもの。これは味が皆違い、それぞれ味わうもの。
全部アップで写真を撮ればよかった。
食べ終わってから、いろいろ気づくのですがもうカラのの食器だけ。それを眺めながらしみじみ考えます。
「おかえりなさい」もいろいろあるでしょう。子供が元気よく帰ってきて、それを迎える元気な「おかえりなさい」。夫が遅く帰ってきて、少し機嫌悪くの「おかえりなさい」。退院した母を迎えたときの、ほっとした「おかえりなさい」。大好きな人が戻って、抱き着きながらの甘い「おかえりなさい」。忙しくて、顔を見もしないで一応いう「おかえりなさい」。16種類くらいの「おかえりなさい」を、ひとは日々使い分けているかもしれません。これから一生、何度「おかえりなさい」を言うのでしょう。どうせなら、ここの女性たちのようにほっこりと丁寧に、心から言いたいものです。
帰りがけに調理場をのぞくと、女性たちが奮闘中。たかがそうめんですが、ここのそうめんは他とは違う。「種類が多いので大変ですね」と声をかけると、「係を決めて、間違わないようにね」「本当は150種類くらい考えたの。そのうちの16種類なの」「野菜は地元のもの」「そうめんが名産だから、一軒の店のばかり使わないで、順にいろんな店のを使ってるの」とのこと。そうめんの道、なかなか深いです。
ご馳走様~と帰ろうとすると、もちろん、送り出す言葉は「行ってらっしゃ~い」でした。