美唄鶏物語

ゆとりある記

北海道美唄市(びばい)に行ってきました。「焼き鳥」と「とりめし」が名物です。

明治に入植した開拓団は、大正時代稲作が本格的になっても貧しかった。そのため農民に雄雌の鶏を貸し出して雛を増やし、収入と栄養にする仕組みが考えられた。

以来、ここのご馳走は鶏、しかも皮やモツまで残さず使う食べ方です。

地元の人が大事にしてきた味は、そんな物語をうかがうとなおさら美味しく感じるのでした。
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札幌駅でこんな差し入れをいただきました。炒めることなくビニールの袋から直にそのまま食べる「やきそば」。

え?焼いてないけど・・・。

美唄のソウルフード。今は学生の小腹を満たしているものの、かつては炭鉱で働く労働者が汚れた手のままかぶりついていたのだそうです。

ソース味が付いていて、アクセントになる紅ショウガも付いている。この辺りから、美唄の食は凄そうだ、と胸騒ぎがしたのでした。

それにしてもきれいな美唄の雪景色です。米どころです、雪がなければ田んぼが延々と広がっているのでしょう。

開墾し、米作りをしても、小作民は貧しかった。収入源のために鶏が配られた。冒頭に書いたレンタル鶏の仕組みです。

そして人々は、何か特別な時はその鶏をつぶして食べた。もったいないから、皮もモツもすべてを食べた。それがここの「とりめし」「やきとり」の発祥だそうです。

まず伺った「とりめし」屋さん。昔は「とりめし」を各家で炊いたそうですが、今はこういうお店に食べに行くことが多いとか。このお店では、塩ラーメンとセットで食べることを勧められました。

確かに美味しい。醤油味のご飯のなかに鶏がゴロンとしていて、甘味は?たっぷり入っている玉ネギです。

それぞれのお店に工夫があるとか。開拓農民のご馳走が今や名物に、土地の自慢の味になったいる。なかなか家庭では出せない味ですね。


お店に入ってからずっと聞こえ続けている「トントントン♪」という音。なんだろう?調理場をのぞくとすらりとした若者が、大量の玉ネギを刻んでいました。

おばあちゃんがニコニコしながら教えてくれます。「札幌に4年行ってたけど、戻ってきてくれたの」

お孫さんです、後継ぎです。うれしいでしょうね。「トントントン♪」派手なTシャツの後ろ姿のたくましいこと。ここの玉ネギたっぷりの「とりめし」は安泰です。


夜、懇親会となりました。またもや鶏です。本格的です。

「やきとり」はモツのものと精肉のものと、塩コショウ味、玉ネギと刺してある。

「やきとり」と言いながら「焼きとん」のところもありますが、ここは本当に鶏一筋。モツが美味しかった~~。


キラキラ輝くお刺身も鶏。魚の出る幕はありません。ネギと一味唐辛子で食べる、お酒にあいます。


鶏鍋のあとは、再び「とりめし」のおにぎりでした。


はるか向こうに防風林の立つ平原。風が吹き荒れれば、生き物はじっと耐えて晴天を待つしかない。

そんな時、何か特別なことがあって、食べた「とりめし」「やきとり」はどんなに身体と心を温め、満たしてくれたことでしょう。

そんな鶏に対する崇拝心が、DNAとしてここの人たちには引き継がれているのか、皆が皆「とりめし」「やきとり」を自慢し続けます。


ある女性グループは伝統の「とりめし」を作って20年、「気づいたら20歳も歳をとっちゃって」と笑います。

お弁当やおにぎりをあちこちで売るほか、お釜ごとの宅配もやっているとか。作り方を教えてもらいたいと申し出れば「あんまり簡単で、何も難しくない。教えることがないの」とまた笑います。

彼女たちが作った「とりめし」を美唄を離れる日、スーパーで買って電車に乗りました。

常温で持ち歩けば凍るほどの寒さです。その「とりめし」を混んだ特急の中で、クタクタの身体で食べる。温かいお茶など無く、ただの水でいただく。

なのに、なのに、何でしょう?この美味しさは?

前の座席に座ったお仲間が、振り向いてまで言います。「美味しいね~」お米でしょうか、鶏でしょうか、調味料の黄金比率でしょうか?美唄の人の鶏への愛情、地域へのこだわり、それが一番の隠し味なのでしょうね。

東京に、あの「とりめし」の釜ごと取り寄せたい!
いえいえ、口を美唄に運びましょう。