瀬戸のノベルティ

ゆとりある記

ノベルティというと、販促品とか記念品、ノベルティグッズといういい方が定着しています。それが愛知県瀬戸市では、ノベルティといえば戦後輸出品とし生産された陶磁器の置物や装飾品の総称。

1300年の歴史の窯業地の、戦後一時期、経済の牽引力となった産物としてとらえられています。今ではほとんど作られていませんが、有志の力で、再び注目されつつあります。

この夏の終わりに、瀬戸の末広町商店街で初めて「ノベルティ」と出会いました。商店街のそれぞれの店・ウインドウに飾られてきれいなものでした。

そういえば、こういう西洋風の馬やお姫様の置物、どこかで見たことあるなあ~、という気はするのですが、「ノベルティ」という呼び名であったとは・・・。

おそらくそれは製造していた瀬戸やその業界での呼び方なのではと思います。戦後盛んに作られて、欧米に輸出されたとのこと、つまり輸出が主だったので瀬戸以外の土地で馴染みは薄いのでしょう。

でも、地元では「ノベルティで食べていた」時代があったのですから、皆が懐かしいのです。店頭のノベルティの展示を見るおばちゃんたちも「やっぱり、瀬戸はノベルティだよね」などと話していました。

インディアン、マリリンモンロー、リンカーン、カウボーイ、人形のお尻に栓があったりするのは、ボトルとして輸出すると税金が少なくすんだからとか。いろいろな工夫を重ねながら、瀬戸はこのノベルティでかなり潤ったのでした。

さて、ブームが去ってから、いまやこんな面倒くさいことをする職人さんもいなくなり、ノベルティは焼き物工場の置くに積まれて埃にまみれていたり、倉庫の奥の箱にしまわれていたり。

それを今一度、世に出して再評価しようという動きが起きています。“瀬戸ノベルティ文化保存協会”が2007年に発足し、いろいろな活動が始まっています。この店頭展示もその一環です。「埃まみれの中から、本当の誇りを見つけたい」とのことです。

アメリカのイラストレーター、ノーマン・ロックウェル(1894年~1978年)の作品をモチーフにした作品には驚きました。子どもたちの繊細な表情が描かれ、その感情までもが伝わってくる名作です。

一つの作品は、いくつのも部分に分けて型を作り焼かれたとか。瀬戸の技術の確かさがわかります。それにしても昭和30年代くらいに、遠い海の向こうの暮らしをイラストをもとに立体にして、絵付けをしながら、瀬戸の職人さんはどんなことを考えていたのでしょう。

作品なんて思いもなく、暮らしのために作っていたのでしょうが、でもやはり手は抜けず、そして外国の暮らしへの興味もきっと膨らんだはずです。

先日は、同じく末広町で「磁器のあかりとクリスマスノベルティ」の展示を見せていただきました。薄い磁器の肌を透かして届く灯りは、なんともスローなあたたかい印象です。いま、これを売っていたのなら、または東京で飾ったなら、絶対に話題になるだろうに・・と思いました。

私のうちの近くの「けやき坂」は今年もLEDの灯りが街を照らしています。でも、何だか心に届かない。それに比べて、瀬戸の職人さんが昭和の時代に、想いを込めて手づくりした、このノベルティの名もない少女の灯りは、暮れの私の心をポッとあたためてくれたものです。