おばちゃんの味
どこの土地でも女性たちが、素朴ながらも工夫をした食べ物を作り、地域の顔を作っています。
雲仙こぶ高菜漬け入りの巻き寿司と饅頭、地元野菜果物入りのドレッシング、アイディア豆腐蒲鉾、ジャガ団子汁、雲仙市でいただいた味はどれもが頑張る中年女性、おばちゃんの手によるものでした。
この味がいまや、旅の時間の重要な彩りとなっています。
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「山の駅 べジドリーム」の小林芳子さん。最初、東京でお会いした時は、従業員の方かと思っていましたが、なんと社長さんでした。
「周りがみんな畑で、果物・野菜がとってもいいのができるの。これをもっと食べてほしい、打ち出したいとドレッシングを作ったんです」
とのことで、ここのドレッシングは無添加、無着色。イチゴ、ミカン、パクチー、ビーツなど、いろいろな種類があります。
野菜にかけるだけでなく、お肉や魚にもたっぷりかけたくなる。数種類をかけて、その色や味を楽しみたくなります。ここのメイン商品です。
カフェの窓から見えるのは、畑。その先に海。
農作業している人、学校帰りの子どもたち、ギューンと伸びる野菜たち、そんな農の日常を眺めながらヘルシーな食事ができる。目からも健康になるロケーションです。
写真を撮ろうとしたら小林さん、「帽子かぶるわ!」。なるほど、真っ赤な帽子が決まっていました。
「雲仙こぶ高菜漬け」を作っている馬場節枝さん。以前からお世話になっていますが、久しぶりの訪問。
「朝、4時に起きていろいろやって、いまなの」と。さっき起きた私などより、数倍ももはや働いている!
しかも、卵で巻いた太巻き寿司と、ふわふわ蒸かし饅頭も作っていてくださいました。
早速いただくと、どちらにもきちんと「こぶ高菜漬け」が入り、その存在を主張しています。
こぶ高菜は雲仙の伝統野菜、その漬物はイタリアのスローフード協会が認めた、希少な味です。
ただ、漬物だけではなかなか食べる機会がないので、様々にこうして漬物の出番を作っているのでしょう。
「絶対に、なくしちゃならない味だから、頑張るの」と馬場さん。こぶのある珍しい高菜「こぶ高菜」は、力こぶのこぶなのでした。
「あい娘酒造」の山崎智佐子さん。まるで“鶴瓶の家族に乾杯”のようにブラッと現れた、私の相手を笑顔でしてくださいます。
「お酒?いただきますよ、主人と。ハイ、毎晩。もちろん一番安いのを飲んでますよ~~」と大笑い。
水のいい雲仙です。造り酒屋さんは昔はたくさんあったとか。今はほんの数軒ですが、こうして地酒の蔵とお店がきちんとある、というのは幸せな土地ですね。
永遠の娘さんのような奥様と、自分のつくったお酒を晩酌なんて、ご主人もお幸せです。
帰ろうとして足元のガーデニング?に気付きました。昔の徳利が、雨上がりに瑞々しく美しく並んでいます。
この店先で、キューッと一杯飲みたくなりました。
「みゆき蒲鉾本舗」の久山つや子さん。この人がいるだけで、その場がピチピチと活きが良くなり、元気オーラをいただけるお日様みたいな方。
今回も、お店で「あら~~~~♪せんせ~~~~~~~~~~~~!」と飛びついてくれます。
50年前から製法の変わらない大きな四角い「天ぷら」、ソウルフードですね。
こういうのをちぎってかじりながら、日本酒なんて美味しいに決まっています。
このお店で有名なのは「とうふ蒲鉾」上品な滑らかな味はワインにあいますね。
「食べてみて、食べてみて、これも、こっちも食べてみて」と次々に。ここに映っていない新作もずいぶんいただきました。
「今度、こういうの作ってみてくださいよ」と私がひとこと提案すると「うん、うん、やる、やってみる、いいね、うん♪」と、もう走って試作しそうな勢い。即やる!!蒲鉾パワーでしょうか。
「小浜ビジネスホテル」の女将さんと、お嫁さん。ああ、しまった、お名前を聞き忘れた。すみません。
地方の海辺の小さなビジネスホテルです。でもしっかり天然温泉がかけ流しです。湯の花の巨大な塊が温泉の流れる口になっている、まるで古木のようでした。ああ、この写真も撮り忘れた。
女将さんと前日にちょっと会話した時、特産のジャガイモの話になりました。
食べ方のことを聞いたいたら「ジャガイモの団子汁美味しいですよ」とのこと。もちろん「え?それ食べたい」とリクエストして、朝ごはんにご登場となりました。
普通の朝ごはんですが、この汁が「雲仙ジャガだぞー」と胸を張っています。
箸で割るとほっくらと、口に含むとジャガの香り、そして、あら、意外にお餅のようにねっとりと。
「私よりうちのお嫁さんが作るの上手いんですよ」と女将さん。「ジャガをすりおろして、ザルでこすと、水分とその下にはでんぷんの白い粉がたまるので、水は捨てて、そのでんぷんとザルのジャガとを混ぜて団子にするんです」とお嫁さん。
そんな手のかかることをしてくれたんだ・・・。「特別じゃないんです、連泊のお客さんにはよく出すんです。喜ばれますよ」と女将さん。
ほっとする味でした。
どうでしょう?いずれも味を支える女性たちです、女性による地域の味です。もしこのおばちゃんたちに会わずに、この味に触れずに、ただ景色を見て、旅館料理だけを食べて帰ったら、観光地はどこものっぺらぼうでしょう。
こういう人たち、こういう味を大事にできる土地が、この時代生き残っていくと思います。
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