1時間の森歩き

ゆとりある記

北海道阿寒湖温泉の森を、ほんの1時間散策しました。

冬枯れの森は見通しが良く、積雪がまだなので熊笹の緑も鑑賞できます。

湧水の流れには水芭蕉の株があり、硫黄の匂いの先には熱い温泉ガスの湧く“ボッケ”という名の泥沼が。王様みたいにそびえる大木に会い、絨毯のような枯葉の道をぶらりぶらり。

仕事に追われる日々、こんな世界があるのを忘れていました。森の力で、1時間で、元気を取り戻しました。
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久しぶりの阿寒湖温泉、観光振興の会議に出るためにうかがったのですが、いろいろな方と顔を合わせ、膨大な課題に知恵を出す時間は、楽しくもあり、苦しくもありです。


相変わらず、美味しいお料理が舌をもてなしてくださるのですが、それだけではなかなか頭の疲れは取れません。


すると、阿寒湖の森を保護管理しておいでの「前田一歩園財団」の方が、森へ誘ってくださいました。

他の学者先生方とご一緒に、普通は入れないところを解説いただきながら。

長靴をお借りして入ったのは、「光の森」というエリア。なるほど、たくさんの樹々が茂っていますが、地面まで光が届くいい森です。

先生方は解説を聞きながらどんどん歩かれますが、私はこういうのが気になる。

夏には背丈ほどの高さに茂っている大きなフキ。その葉が枯れて、眠るようにクタリと地面に貼り付いている。

何だかずっと見てたい、夏の姿を想像したくなる眠り姿です。


一面に繁る熊笹。パンダがこの笹を食べるかは?ですが、どこかでむしゃむしゃと食べているのでは、という気になります。

何だか美味しそう!


チョロチョロ流れるのは湧水です。もうじきたっぷり雪が降れば、この水芭蕉の株はじっと耐え忍ぶのでしょう。

湧水の温度が守ってくれるのかもしれません。


いつも音に囲まれていると、森の静けさに驚きます。

お連れの方々の話し声が遠のくと、聞こえるのはカサり、コソリ、私が落ち葉を踏み分けて歩く音ばかり。

あれ?硫黄の匂いがする。なんだか嗅覚も敏感になったようです。

匂いをたどっていくと、小さな泥沼のようなものが。


足元に気を付けて湯気の上がるところを覗くと、ボコッ、ボコッと、お湯とガスが湧いている。“ボッケ”です。

森の遥か下には火山のマグマがうごめいている。だから、昨夜の温泉に入れたんだ・・・とあらためて納得しました。


一直線に並んで立つ樹は、“倒木更新”という現象。

倒れた樹に種が落ち、その朽ちる樹を栄養に育っていった証。何十年もかけて、こんなことが静々と行われているんですね。


よーく見ると、倒れた樹の上に青い苔が生え、そこから新しい樹の芽が出ていました。

何かの実も落ちています。やがてこの種も芽を出すのでしょう。


ひときわ大きな樹がありました。王様のような風格です。桂だそうです。

樹齢何年なのでしょう。木肌はバリバリに割れ剥がれ、傷だらけのようにも見えますが、王が鎧を身にまとっているようにも見えます。

さっきまでの議論や会議が、やけに小さなものに思えてきました。

この樹々と同じ空気を深呼吸させていただいて、それをお土産にこれで東京に帰りましょう。

「1時間の森歩き」という処方箋、忙し病の私には特効薬でした。

※おまけに載せちゃいます。「エゾリス君」の写真。阿寒湖温泉でお土産物屋さんをやっている友人・恵美ちゃんがお散歩中に撮ったものです。