「おいしい那須暦」

お仕事で

栃木県那須町の住民グループが、8年間作り続けている暦があります。土地の素朴な料理や、農産物、農作業、伝統、自然などを、季節を追いながら365アイテム数え上げ、それを絵にしてあります。素人絵がほのぼのしていて、根強い人気。

地域資源を確認しながらたくさんの人が関わるので、まちおこしの手法として各地で紹介すると「うちでもやってみたい」と声が上がります。

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さて、振り返ってみましょう。

那須は人口27000人、農業の町ですが温泉もスキー場もあり、
那須の御用邸もある観光・別荘地でもあります。

ここで2006年、農と食と観光が連携してのまちづくりをしようと、国交省の事業が始まりました。私はアドバイザーというような立場で伺いました。

何度か、現地で会議をして、提案報告書みたいのを作る流れだったのですが、どうも難しい会議だけやっていてもつまらない。

そういう固い会議とは別にみんながわいわい参加できる会議、いわゆるワーキングを、サブに作りましょうということになりました。

それなら会議室ではなく、調理もできる部屋で「わいわい会議」という名にしようということになりました。

役職がなくとも「農と食と観光が連携してのまちづくりをしよう」と思う人ならだれでも参加できる、平らかな場。

毎回、何か食べること、全員がしゃべること、知らない人が隣同士に座ること、が私の作った会議のルール。すぐにみんな仲良くなりました。

「冬の野菜でおいしいメニューを考えよう」「観光客が減る冬にもそれなりのおもてなしを」と、材料・アイディアを持ち寄って、煮こんでいるうちにいろいろな「スープ」ができます。

これに「な・す~ぷ」と名をつけました。参加していた、道の駅、ペンション、レストランなど20軒くらいで、それぞれの「な・す~ぷ」を出すことになりました。

さて、料理が苦手な男性たち、興味がないという人もいます。
新メニューの開発とは別に、那須の年間の“食”を中心とした魅力をカードワークで書き出すワークショップをやりました。

農業者・一般主婦・学校の先生・ペンション・食堂・酪農家などいろんな人が集まっていたので、出るわ出るわ多様な情報が出ます。

「このころにはタラの芽が出ておいしい」「この日あたりに毎年芋を植える」「この時期にはこんな餅をつく」「このころにはこんな花が咲く」「毎年、蛍が飛び出すのは」などなど。観光パンフレットには載らない、町民の生活に密着した情報です。

これは面白い!と、月ごとに分類しました。参加者みんなが驚くほど、那須には“おいしい”情報がありました。

町民でもしらないことがあるから、これをカレンダーにしたらどうだろう。それなら365日に整理して、絵もかいちゃおう、ということになりました。
(写真はその当時の様子。なすとらん倶楽部からお借りした貴重なもの)

ちょうど、3月に「なすとらん会議」というフォーラムをやることになっていたので間に合うように分担し、一人が何枚かの絵を描きました。

絵の大きさはA4の紙を半分にした大きさ。色鉛筆やクレヨンでゆるゆると描きます。下手な人も、照れながら、ああでもないこうでもないといいながら。

描き切れずに持ち帰り、孫に描かせた人、近所の絵のうまいばあちゃんに頼んだ人、いろいろです。

畳の上で、模造紙に貼り付けて。やがて巨大な暦が形になっていきました。1か月分が模造紙1枚に、コメントも書き入れてようよう完成。フォーラムの日に会場に12枚を貼り出しました。

初めての「おいしい那須暦」の完成2007年3月のことです。絵を描いた人は、みんなフォーラムに来ました。絵の前でばあちゃんは記念写真を撮りました。そして、この暦はその後印刷されることになったのです。

フォーラムのあと、この集まりを残そうと、「わいわい会議」は那須全体をレストランと捉える「なすとらん倶楽部」としました。みんなが会費を集め、その4月には組織ができました。

暦は毎年リニューアルして、発行され続けています。500円で売られ活動費にも。

小学校や商工会や個人が買って、事務所や家につるす。人にプレゼントする。この暦は月が変わってめくっても、けして破って捨てる気にはなりません。

広告代理店などが作ったきれいなカレンダーだったら、惜しげもなく捨てるのに、みんなで作った暦は宝物なのです。

先日9回目の「なすとらん会議」がありました。200人の人が集まりました。

今年のやり方は全員でワークショップ、テーブルトークをしてみました。「そば」「チーズ」「野菜」「牛乳」「和牛」「味噌」「自転車」「アート」など18アイテムの那須の食・観光資源をひとつずつテーブルテーマに選んでのわいわい会議です。

最後に20テーブルで話されたことを20人の進行役が報告、ポーズを決めてお開きになりました。

今回は18アイテムでしたが、本当はもっともっと魅力あるまちであることをみんな知っています。なぜなら、「おいしい那須暦」では365情報が紹介され、それを見るたびに、那須の魅力を確認できるからです。

この暦は地味でかわいい試みです、でも、この暦が活動の芯になり、人の輪と、地域おこしが育っているのは事実でしょう。

この暦が毎年トイレに下がっている、そんな家庭で育った那須の子は、これからどんな町を創って行ってくれるのでしょうか。

「おいしい那須暦」は、一昨年、富山県高岡市で開催した「スローライフ逸品展」に出品し、80点の中から「高岡市長賞」を受賞しました。

みんなで作るこの暦のやり方、皆さんどんどん真似てください。そのうち、各地の「まちおこし暦展覧会」などできるかもしれません。