三重県グリーンツーリズム

お仕事で

松阪市で行われた「三重県グリーン・ツーリズムネットワーク大会」に行ってきました。

松阪というと観光客には、高級な松阪牛のすき焼きという印象が強いですが、全く違う、のどかで素朴な地で、土と生きる力強い人との交流ができました。

クレソンのうどん、朴の葉で包んだデンガラという名の餅、松阪庶民の愛する鶏肉の唐揚げ、地域の味とともに語り合った話が忘れられません。

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合併して松阪市になった飯高町波瀬(はぜ)地区に先ずは大会の分科会・視察としてうかがいました。

松阪市の西端、奈良県と接しているところ。周りは高い山に囲われているところですが、かつては交通の要所で本陣跡が残っています。何となく品のある歴史を感じる佇まいです。

その波瀬で「波瀬クレソン」というブランドクレソンを作っている、北川京子さんです。

かつてワサビを栽培しようとしたところ、そのワサビについてきたクレソンばかりが茂り、ワサビはなくなってしまったそうです。

クレソンには興味がなかった北川さんは、雑草のように抜いていましたが、その勢いある立派なクレソンを都会から来た人がほめたたえ、その価値に気づいたそうです。

良い水に恵まれているので、休耕田にどんどんクレソンを増やしていきました。

最初は全く売れなかったのが、クレソンの使い方・料理の仕方を書いて売るようになるとだんだん売れるようになったそうです。

そして今では彼女のお店「はぜの風」でクレソン鍋を出しています。完全予約制にもかかわらず、お客様が絶えないとか・・。東京の有名百貨店までここのクレソンは行ってます。

見学のときはちょうど「クレソンに虫がついちゃったの、ごめんなさい」という時でした。

見れば確かにクレソンは穴だらけ、「消毒は一切しないから、このまま放っておくんです」と北川さんはおおらかに笑います。

いい加減虫が食べた後には、また元気なクレソンが生えてくるとのこと。「きれいな水さえ絶えなければ、クレソンは大丈夫なんです」

希望があれば全国にクレソンの苗を分けている北川さん、過疎地が活性化していくことがうれしいのだそうです。「この白い花が咲くときもいいですよ。お花見に来てね」

今はクレソンを粉にして、緑色のうどんもできていました。このクレソンうどんのカルボナーラ風がおいしかった!

立ち寄った「波瀬ゆり館」(旧波瀬小学校)では、地元の女性たちが「でんがら」という波瀬スイーツを教えてくださいました。

昔からこの地の農作業の一段落の時に作られた、朴葉で包んだ饅頭風のお餅です。

小麦粉に餅米の粉を混ぜ、それで作った生地であんこを包みます。それを朴の葉でしっかり包みシュロの葉で作った紐でくくる、そして蒸すと出来上がり。

出来立てももちもちでおいしかったですが、翌日、お土産にいただいた少し硬くなったものが歯切れが良くて、朴の香りがしっかりついて、さらにおいしいものでした。

しっかり風呂敷で包むように巻くので、この美しい形が出来上がります。並んだ姿が田んぼのようにみえるからとか、葉をはがした跡が、お餅に田の畦のように残るからとか、その名の由来は??のようです。

波瀬ですごいなあ、と感心したのが「波瀬むらづくり協議会」が描く「波瀬ゆりを咲かそう」という組織図です。

誰がどんな役割を持ってこの600人強の地区を良くしていくのか、がすっきり分かるように整理されています。北川さんはこの組織の中の産業部会長でした。

こういう仕組みがしっかりできているので、みんなが少しずつでも前に進めるということでしょう。ここは今年度の「豊かなむらづくり全国表彰」を受けています。

さて翌日、「三重県グリーン・ツーリズムネットワーク大会」で私は基調講演、その後、シンポジウムにも。

終了後、お願いして松阪市柚原町にある「うきさとむら」に連れて行っていただきました。ここは別の分科会会場だったのでうかがえなかったのでした。

「うきさと」は「宇気郷」と書きます。4つの地区からなり、ここも「宇気郷住民協議会」がしっかりと地域を束ねています。

その拠点となっているのが「うきさとむら」というお休み処・体験施設。前日の交流会でここの鶏の唐揚げを食べて、あまりに美味しかったので訪ねたかったのです。

松阪では、みんな松阪牛を食べているわけではありません。焼肉屋さんの看板には「かしわ焼肉」とか「焼きとり」とかの言葉が添えてあります。

焼きとりは串に刺さない、いわゆる牛の焼肉の鶏バージョン。タレに漬けておいた鶏肉を火で炙り、さらにタレをつけていただきます。

つまり庶民の焼肉には鶏肉の存在が大きく、松阪の人たちは「かしわ」にうるさい。だから、唐揚げも当然高水準になります。

ここの名物は、「よもぎだんご」「ふとこともち」「モロヘイヤうどん」なども。

うかがった時は休館日でしたが、無理無理うどんと唐揚げをお願いしました。(すみません!)

味付けなのか、揚げ方なのか、鶏肉の臭いなど全くない、ジューシーな唐揚げです。

この郷の中心人物・西井靜男さんがおっしゃいます。「水がきれいだから、それで育った鶏だからね」そのきれいな鶏を、新鮮な肉を食べるのですから、全く違いますね。

西井さんのお嬢さん忍草さんが、昨日の交流会で唐揚げを揚げてくださったご本人でした。

台所を覗き込むとピカピカ、我家の台所と違います。むらおこし拠点の味はこの簡素な、でも手入れの入った台所から生まれるのです。

ここの唐揚げは桑名市の「三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島」という大規模商業施設で売られています。そして、そこで1食売れるごとに、「宇気郷住民協議会」に10円の寄付が入る仕組みになっているそうです。

「向こうから、なんだか話があってね。食べたらとにかく美味しかったからって」と西井さんはあくまで自然体。

いいものを出していれば、田舎が都市にこびることなく、対等に交流ができるということでしょう。これからの村おこしはこういうやり方が大事、とおしえられました。

農村体験ができる場所には、デザインの違うテーブル・イスが並びます。お金をかけて一度に揃えたのではない、この施設の歴史と立ち居地が見えてきます。

後ろに流れる清流は、鶏やうどん、名物の月替わり粥の美味しさの元でしょう。そして、夏には涼しい時間をつってくれます。

「お祭りの時はね、看板を書いたり、いろいろする人があちこちから手伝いに来てくれる」頼まなくても、ここに混ぜてもらいたい、そう思わせてくれる「うきさとむら」なのでした。

グリーンツーリズムとは、何かのもぎ取りとか、体験とか、に走りがちですが、要はこういう山里に暮らす知的な人たちと会い、語り合うことに尽きます。

地域を束ねる組織をしっかりとつくり、何が大切かをしっかり捕まえながら、胸を張って伸びやかに生きている。波瀬の人たち、宇気郷の人たち、みんな素敵です。

訪ねた者と、地元の素敵な人のその中間に、自然を生かした美味しいものがあれば、会話も弾むというもの。クレソンもでんがらも鶏の唐揚げも、繋がるための大事な手段なのです。

三重県松阪の山里で、本当のグリーンツーリズムについて教えられました。"