上下の翁座

お仕事で

上下(じょうげ)、広島県府中市のこの町は江戸時代石見銀山の銀を運ぶ銀山街道の宿場として栄え、天領とされていたとのこと。昔の白壁の家並び、ガイドさんは「ここはお金持ちが多かったので」という言葉を繰り返します。町民が自分たちで楽しむために造った芝居小屋「翁座」も残ります。道路に出された「道をお聞きください」という看板に、私も豊かな気持ちになりました。

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町の中心部が分水嶺になっていて、峠でもあったことからとか。上下というおもしろい名には諸説あります。2004年に府中市と合併しましたが、広島県の山奥というか、秘境というか。標高も高く、もしも街道や天領代官所がなかったら、今も寒村だっただろうと思えます。

ここでかつて有力商人が銀をもとに金融貸付業を営み、膨大なお金を動かしていたそうです。その資金が石見銀山を支えていたとか。いまはこんなに静かな佇まいですが、昔は人と荷車などが行きかう賑わいの街道だったのでしょう。

それぞれの建物はそれほど古くありませんが、やはり重厚さを感じる街並みです。

各地の古い町並みのあるところへこれまで何度も伺ってきましたが、ここはなんとなくよそ者に対してガツガツしていない。土産物を売らんかな、という感じを受けません。

道に面した縁台には高齢者が座り、おしゃべりをしています。観光地でギスギスしていると「忙しいから道なんか聞かないで」という雰囲気がありますが、ここは「道をおたずねください」という看板が。車もすくなく、のんびり歩くのに向いています。

骨董品屋さん?お蕎麦屋さん?店の中から、昔の匂いを風がスーッと運んできます。こういうところで半日ぐらい居て、いろんなものを見たい、お店の人と話したい。

ガイドさんが、近くの翁山に因んだ名の「翁座」(おきなざ)に連れて行ってくださいました。これもそれほどには古くない、大正時代にできたそうです。住民が自分たちの娯楽がほしくて、土地の富豪が出資して造ったとのこと。「映画実演」の看板、土日は見学できるようになっています。

可愛い舞台に布絵の背景。ガイドさんのお母様もここで踊った経験があるとか。住民が上がれる舞台です、みんなの歓声が聞こえてくるような空間です。

ここの保存に地元の小学生も関わっているとか。現存するこういう建物から、自分の故郷の歴史をたどれるなんて羨ましいです。

舞台から花道の方に地下を移動できる穴も。いわゆる「奈落」ですね。

配電盤、電気回路?何て呼んだらいいのでしょう。これだけで歴史を感じますね。一種のアートです。

舞台の裏にはこんな空間が。テレビに押され、映画や舞台に人気が無くなってここがあまり使われなくなってからは、畳敷きのこの楽屋はアパートとして貸したのだそうです。客席も工場として使われたこともあるとか。

この、上下の「翁座」で、歌を歌いたい、ダンスをしたい、シンポジウムをしたい、貸し出してくれないかなあと思いました。昔の台本などあれば、剣劇などもしてみたいなあ。もちろん今、すでにそういう貸出の仕組みはあるのでしょうが、ステージ利用だけでなく、背景幕を下ろしたり、電気のスイッチを入れたり、奈落の掃除をしたり、客席の雑巾がけをしたり、芝居小屋スタッフとしての体験もしてみたくなります。

「上下はお金持ちだった」、なので、行政に頼らずに自らの資金で、福祉、教育、文化活動もしてきたそうです。上下に行ったら、そんな精神も学んで「楽しませてもらう」ではなく、「自ら体験して楽しむ」ツーリズムをしたいものです。