傘と菱と
広島県府中市。上下町矢野の「四季の里」に行くと、庭園の遊歩道の頭上に色とりどりの傘がいっぱいぶら下がります。いわゆる「アンブレラスカイ」です。一方、池には菱がびっしり。増えて困るとのことでしたが、私には都会で手に入らない珍しい水草。少しいただいて涼しく生けました。傘はささずに吊るす、菱は抜き捨てないで飾る。違う使い方で、ものはさらに活きると知りました。
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初めてうかがった町で、最初に口にするもので印象が決まります。今回はショウガ水。ジンジャーシロップジュースですが、昔の「ひやしあめ」の味です。ショウガの産地の手作り品。視察と会議が続く日、そのスタートが実に素朴で美味しいスタートになりました。
この「矢野温泉公園 四季の里」では、花菖蒲が最後の花を咲かせていました。でも、この日ご案内くださった「矢野地域づくりの会」の方の推しは、「アンブレラスカイ」。もともとポルトガルの小さなまちの芸術祭で10年前に始まったもの。これをやりたいと公園の女性スタッフが企画をあたためていたのだそうで、今年初めての試み。この矢野地区には雨乞い伝説のある「雨乞い岩」もあり、傘とは必然性があるのでした。
ただ他の「アンブレラスカイ」とちょっと違うのは、てるてる坊主が下がっていること。雨乞いで雨が降ってほしいのか、晴れてほしいのか、よくわからなくなりますが、にぎやかでかわいい!てるてる坊主は地元の小学生が作っているそうです。
ふつうの「あやめ祭り」なら、訪れる観光客は中高年齢層でしょう。でも「アンブレラスカイ&てるてる坊主」となると、インスタ映えを狙う若い人達、家族連れもやってきます。花菖蒲と、アジサイと、傘と、てるてる坊主、久しぶりに心晴れやかになりました。
さて、上ばかり見ないで下を見ると、池に多量の「菱(ひし)」が浮いています。菱の実を採る菱。昔は貴重な食糧だったのでしょうけれど、今は池の邪魔者になっています。薬膳に使われる菱です。以前、塩ゆでした菱の実を食べたことがあり、ほくほくした食感に驚きました。佐賀県産の貴重な菱焼酎も美味しかったです。なので、菱をただ抜いて捨てるのでは少々もったいと、思いが湧きあがります。とはいえ、栽培品種でないと実の収穫は少しでしょうから、名物にまでは育たない。ならば、生けちゃえ!といただいてきました。
私のわがままに、公園の方が応えてくださいました。池の底まで伸びている長い根っこごと引き抜いて、ビニールに水とともに包んでくださって。これを炎天下、2泊しながら東京まで運ぶのですから、自分ながら呆れます。でもおかげでこんな涼しげな観葉水草となりました。
上の左は、友達のお店にある器に、もう一人の友達が生けたもの。右は私の家にあった古い器に浮かべたもの。下は、夫が食べたコンビニの冷やし中華の器に生けたもの。これが一番観察しやすいですね。これなら子どもたちの教材用に売れるのでは・・・・。などとつい考えてしまいます。
薬効があり、免疫力があがり、ガンにもいいなどと言われますが、ちゃんと見たことがありません。なるほど、葉っぱの付け根が少し赤く膨らんでいて、浮袋のようになっている。その先に永~~~~い根っこが伸びている。本当は菱の実がなっているのも見たいのですが、都会での菱栽培はこの程度で我慢しましょう。
「君がため 浮沼の池の菱摘むと 我が染めし袖 濡れにけるかも」 柿本人麻呂 『万葉集』
炎天下、ビニールで運んで5日目ですが、まだまだ元気。この夏、府中市上下町矢野の「菱」を楽しみます。