神様の塩

お仕事で

三重県伊勢市二見浦、ここでは伊勢神宮に納める塩を作っています。といっても大々的に工場で、ではありません。

塩田で濃い塩水を作り、煮詰め、出来上がった荒塩を三角錐の素焼きの型に詰めて、焼き固め「堅塩」というカチカチの塩を作り上げます。

数百年、いやもっと長い間、変わらぬやり方で。松の緑茂る神社の中、白袴姿の男性が一人、淡々とこの作業をされていました。

ここが塩田でできた濃い塩水をためて置くところ(右)そして中央の建物の中で、真夏、釜で煮詰めていくそうです。煙突もなく、釜戸にマキをくべる直火だき、さぞかし暑い作業でしょう。

少し離れたところにあるのが「御塩殿神社」と「御塩殿」、ここでは全国の塩関係の業者さんが集まって祈願したりの行事もあります。

御塩殿をのぞくと、人影が。土の釜と、その上に並んだ三角形の「堅塩」、白袴姿。なんとも異次元の景色でした。

喜多井さんは定年退職後、この仕事についたとか。前の方が90歳をこえ、ご高齢になったため引き継ぎました。決められた日に正確に、決められた御塩をお届けする、仕事以上に緊張するお仕事。でも基本ご奉仕。淡々と、緩やかに、清清しく、「堅塩」と向き合っている感じです。

喜多井さんが持っているのが、塩を詰める型。土器のようなこの型そのものも彼が作っていらっしゃいます。素手で持たず、お皿に乗せて見せてくださる、そのことにも感心しました。

型に塩をぎっしり詰めて焼いて、コンクリートのように堅くしたものが遠目に見えます。一見、サンドイッチが並んでいるようにも・・。でも、堅い、とにかく堅い。

神様はこの御塩をどうやって召し上がるのでしょう?

風以外に音のしない境内。喜多井さんは、毎日、掃除に来て榊を取り替えるのだそうです。

東京のバタバタした暮らしから考えると、ここの時間そのものが塩で清められ、ゆるりと流れているようです。そんな時間に包まれていると、喜多井さんのような素敵な笑顔になれるのでしょうか。

二見浦には、神々しい、塩時間がありました。