おいしい川上村
ぶらりと寄ったお店が、忘れられないほどおいしかった。そんなことがあると、その土地の評価が上がりますね。先日の奈良県・川上村で、ちょこっと入った柿の葉寿司屋さんがそうでした。
また、ちょうどその日の話題に出た「ちまき」にも泊まった宿でありつけて、これもラッキー。
大ご馳走ではないけれど、目で見た、口に入れた、話に聞いた、そのすべてがおいしかった川上村でした。
吉野川の源流にあるから川上村、日本にはこの名の村は長野県の川上村と二つだけになったそうです。上流、源流にあるから川上、地名としてはわかりやすいので昔はたくさんあったのでしょう。いつしか合併などで消えてしまったようです。
そこに、私のNPOの方の仕事で通っているのですが、夜のワークショップ前に軽く腹ごしらえとなります。ご案内の方が「うどんと柿の葉寿司でもいいですか~?」「いいですよ~」
と答えながら、実は、ここまで来て東京と同じものなど食べたくない。こちらは、うどんと柿の葉寿司こそ、食べたいものなわけです。
もう閉店かな?と思える店に入ると、奥さんが豆をむいています。寿司でもうどんでもない豆の匂いがお出迎えです。
「お寿司はあと18個しかないの。今日はよく出てね」そうなると全部欲しくなります。うどんと一緒に食べて、残ったら夜食にしようともくろみました。
運ばれたお寿司の葉っぱがなんとも美しい緑です。ほめると、奥さんは「うちの、無農薬の畑のだからね」とあっさり、でも自信ありげ。
毎朝5時に柿畑に行き、ちょうどいいのを摘んでくるとのこと。ここの柿畑は実ではなく、葉をとるための畑でした。「秋には紅葉した葉で作るから、これがまたいいの」え?紅葉した柿の葉寿司?絶対に秋にまた食べよう・・。
さて、口に入れると、うん?駅などで売っている柿の葉寿司と少し違う。「サバを塩だけで2週間漬けて、ご飯だけにお酢をして作るの。昔の作り方で、懐かしいっていう人が多いですよ」と奥さん。
サバも甘酸っぱいのに慣れていると、なんだかこの味がとても新鮮でおいしい。「今日のお寿司だから、本当は明日になったほうが葉の香りが移るんだけどね」とは言われても待てましょうか!うどんと一緒にぱくぱくです。
後でご近所の方から聞いた話では、このあたりが柿の葉寿司の発祥地とか。みんな自宅で作るので、みんな少しずつ味が違うのだそうです。
味はもちろん良かったのですが、使っている割り箸のまた良いこと。さすが吉野杉の地です。使ったお箸をいただいて帰ろうとすると、奥さんが新品を少しくださいました。ありがとう。
さて、村おこしのワークショップでは、食べ物が大事という話題がかなり出ました。参加していた、商工会女性部の方が「川上村で作られている伝統的な味を、なんとか守り伝えようとしています」と語ります。
ここでは旧暦での端午の節句、ちょうど作ってみんなに配ったという“ちまきの作り方”のプリントをいただきました。
こういうものをきちんと作り、味わい、楽しむ。そんな川上の文化に混ぜてもらいたいと切に思います。チマキ教室や、柿の葉寿司作り体験があればいいなあ~。
いつものお宿「朝日館」に泊まると、今宵の花はハコネウツギと紫露草。東京の花屋さんでは手に入らない、ここでは“そこらへんに咲いている”花です。こんな花に見守られながら、山菜の煮物で一杯やる時間の楽しいこと、おいしいこと。
翌朝、朝ごはんのデザートに、女将さんがなんと「ちまき」を出してくれました。「アセの葉で巻くんですよ」「アセ???」「水の近くに茂る大きいの、アシなんかよりもっと大きいんですよ」その葉をとりに行くことから、「ちまき」作りは始まるのですね。
「こうしてね、バターで焼いて食べるのもおいしいんですよ」グラニュー糖もまぶします。フレンチトーストのようでコーヒーにあいます。なにより、巻いた形と緑の色がきれいです。
ほんのりアセの葉らしい香りもしました。
帰りに寄った道の駅で柿の葉寿司を作る、押し寿司の型を買いました。川上食文化のお持ち帰りです。未だ作っていませんが、東京の我家で川上村のおいしい思い出が、杉の香りとともによみがえってきす。
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