ごろごろ水

ゆとりある記

その昔、鍾乳洞からゴロゴロと音をたてて湧いていたからこの名があるとか。奈良県吉野郡天川村、修験道の行者が霊場大峯山を目指す際の登山口・洞川温泉(どろがわ)に今も勢い良く流れ出ます。

採水場は名水を求める人で都会並みの混雑ですが、谷での川遊び、宿の迎え水、名水豆腐、など素朴な水の恵みは村のあちこちで感じることができました。この時期、水の風景は何よりのものです。

近鉄・樫原神宮前駅から車でご案内いただいて、1時間半くらいの距離。紀伊半島の真ん中、深い山を高く高く上ったところにあるまさしく天の川の村。天川村(てんかわ)です。

修験道の行者さんが、絶壁に身を乗り出して、まるで逆さづりにされるようなシーンをテレビなどで見たことがあるかと思います。

その「西の覗」(にしののぞき)という修業場がある大峯山(おおみねさん)。その覗きの疑似体験ができる「洞川エコミュージアム」に先ずは直行、高いところが大好きな私には物足りない展示でしたが、建物横の川で久しぶりに川遊びをする家族の姿を見ました。

東京の川とは違います、しかもここは名水が流れ込んでいる川。川風に吹かれているだけで善人になっていくような気分です。着物でなければ、ファミリー川遊びに混ざりたい~~。

さて、そのさらに奥にある名水「ごろごろ水」採水場を目指します。300円の駐車料金でこの水が汲めるとあって、人々はなんだかみんな一心不乱に汲んでいました。

コップを借りて飲むと冷たいこと冷たいこと。カキンと力強い味。これさえ飲めれば満足で、洞川温泉に戻りました。何で“どろがわ”なのでしょう?どろがわとキーを打っても洞川の漢字は出てきません。

標高820メートル、この温泉場が良かった。小さな古いお宿が、一本道に張り付いています。今も行者さんが泊るのですから、チャラチャラした温泉宿の雰囲気がありません。

間違って不倫カップルなど訪れたら、ホラ貝が鳴って背筋が伸びるような・・。うかがったときは、高校の剣道部が合宿していました。

各お宿の玄関には、ごろごろ水とルーツは一緒と思える、掛け流しの水が流れています。きれいな仲居さんが立っているより、ずっと素敵なお出迎え。

こういう迎え水に麦茶のやかんなどが冷やされていると、もうたまりません。ゆっくりしたくなっちゃう。お宿はどこも縁側があります。

行者さんがここでワラジを脱ぐのか、一休みするのか。そして、山伏グッズを売るお店や、陀羅尼助丸という漢方薬を売るお店も。

水を使ってのお豆腐屋さんも何軒か、でも見事に売り切ればかり。「ご自由にお持ちください」とあるオカラまで空っぽです。残念ですが、他のいいお土産を見つけました。

店内には青々したものがずらり、槇の枝です。「槇花」と呼ばれるマキの木の枝を束ねたものは、仏壇など宗派を問わず飾れるのだそうです。関西に多い習慣、ということをお店の方に教わりました。

対で買うのが本来ですが、一束400円をお土産に。「4~5日は水に入れなくとも持つよ」といわれましたが、本当、ホテルにそのまま置いていてもぴんぴん、何より神々しい香がさわやかです。

帰りの車中、ピリッと辛い三角コンニャク、手づくりの柿の葉寿司など食べながら、「ごろごろ水の周りには、いいものがごろごろあるなあ~」と思いました。