あなたの分量

ゆとりある記

東京新宿・荒木町。ときどきお世話になるとんかつ屋さんのカウンターにはこんな貼紙が。「当店のご飯はとてもおいしいです。でも残すとモッタイナイ。あなたの分量を、番号でお知らせください」

そしてご飯の量が5段階の番号で書かれています。慣れているお客さんは「とんかつ定食4番で」という頼み方。店も客も「モッタイナイ」の気持ちで繋がっている、いい感じす。

ファミリーレストランなどで、「すいません、ご飯半分でいいんですけど」と頼むと「どうぞ残してください」などといわれます。微調整のできない画一な分量がいやおうなく運ばれてきます。

残したご飯のかたまりを残飯としてドサッと捨てることを繰り返していると、店員さんは「べつにいいじゃない」という感覚になるのでしょうか。または、厨房に細かい願い事をホールのウェイトレスさんからはできない状況なのでしょうか。「残してください」は、今の時代におもてなしとは思えません。

さて、しかし「あなたの分量」と聞かれて、こちらも応えなくてはならない。これはお客側も試されているといえます。画一的な世界にのっかていれば楽なのですが、自分のおなか具合や健康に考えめぐらせ判断しなくてはならない。「汝の腹の減り加減は何番ぞ?」問われて応えられる大人でなくてはいけません。

ご主人と奥さんがニコニコ楽しそうに切り盛りする、カウンターだけの小さなお店ですが、「煮かつ丼」「かけかつ丼」「そうすかつ重」とかつ丼だけでも3種類あるこだわりの店。こういう番号取り決めがあっても、いつも繁盛です。

大人のお客ぶって、つい愚問を投げました。「こういうおいしい揚げ物をするのって、油をどのくらいのペースで替えるんですか」私の頭の中には、うちの台所にある‘昨日天ぷらを揚げてもう一回ぐらい揚げ物をしようと残してあるサラダ油’のイメージがありました。

「う~ん、油を替えるというより、めんどうをみる、手当てをするという感じですね」とご主人。「今どき油にこんなに手間をかけている店、他にないですよ。ふふふ」とかわいく笑う奥さん。

よくうかがうと、ここの油は本当のラード。出来あいではなく、肉屋さんから白い脂のかたまりを手に入れ、煮込んで液体のラードにするのだとか。で、そのラードを、毎日使い、濾して、足して、の繰り返し。店内には油を絞る機械までありました。

この説明をうかがって、私の頭の中にあった我が家のフライパンの中の油はひっくり返ったわけですが、さらに。「何でそんな手間をかけて、手づくりラードなんですか?」とうかがうと、「う~ん、油の腰が立つというか・・・」とのこと。

「コ・シ・ガ・タ・ツ?」想像できないまま、とにかくだからおいしいんだと私は納得したわけです。わが身の‘分’もわきまえて質問しなくちゃと思いつつ、熱々、サクサク、ジューシーのとんかつに今宵も感謝して、ごちそうさまでしたなのです。