ところてん‘だけ’店

ゆとりある記

ところてん‘だけ’のお店。正確にいえばラムネもありますが、メニューはこれだけのところてん屋さん。長崎県雲仙市千々石(ちぢわ)、開店は夏だけ。

店で煮て、湧き水でよおく冷やしたところてんを、おばちゃんが「コン♪」と突いてくれます。酢醤油と柚子胡椒でツルツルリ~。ああ、熱中症が飛んでいく。

品揃えの多い大型店にとかく皆走りがちですが、こういう‘だけ’のお店も、存在感があるものです。

東京を飛び出し、長崎市内で会議をしてその足で友だちのいる海辺の棚田のまち、千々石へ。久しぶりの友と会って、まずは小腹がすいた、とならば行くのはところてん。まっしぐらです。

あちこちに水の湧く土地ですから、この店の前にも水口のある池が。水の神様も祀られていて、水の冷気のせいかお店は開け放してクーラーなしでも涼しいです。

もう食べ終わった感じのネクタイおじさん集団が、子供のようにラムネの最後の一口をラッパ飲みしている姿がなんともかわいい。

「何にしよう?」と迷うことはありません。「お願いします」と頼めば「ラムネも?」と聞かれるだけ。

湧き水が流れ続ける水槽から、おばちゃんはヒラリとところてん1本をすくいあげ、即、コーン♪と突きます。写真を撮るのが間に合わない。

食べるのも即行、デリケートな湧き水の温度を飲み込むのに時間をかけてはいけません。あれ?気がついたら3杯も食べていました。

帰ろうとしたら、家族連れが来店。子供は例の「コーン♪」をやらせてもらっています。おばあちゃん、おとうさん、おかあさん、一緒の大人はみんな小さいときからこのところてんを食べてきた人たちです。

「お客さん、東京から?まあお二人遠くから」「いえ、私は地元」「どこ」「あの、あそこの・・・」と会話が弾む弾む。

早く帰れ、でもないし、もっと買え、でもない。こんなお店はいいなあ。友だちに店の名前を聞くと、「ええ?あるのかな?知らない」とのことでした。