小さいけれど大きいこと

お仕事で

店頭に井戸水を流し、バラを育てている店。昔、味噌を入れていたので、今でも塩を吹く大瓶。おじいさんに見える木。夜、星を観に連れて行ってくれる宿。きしむ、黒光りする木の階段。漢方薬が一度に10粒すくえるかわいいスプーン。

「で、それが何なの?」といいたくなる、さもないことですが、集まるととても大きなメッセージを感じます。木曽路でのことです。


2回ほど、長野県木曽福島で行った観光ちいきづくりワークショップでのことを書きました。これが〆。

観光資源探しのために研修参加者と歩き始めてすぐに寄ったのは、店先にバラやゼラニウムやら様々花を咲かしている荒物屋さん。

「花がきれいですね~」と声をかけると、店の奥さんが出てきて「これは井戸水なの、この水を毎日やってるからね」とのこと。「水道水はカルキを飛ばしてからやらないと、花に悪いでしょ。ここの水はいいの」

ほほう、水道水しかないマンション暮らしにはうらやましい話。奥さんの愛か、ミネラル豊富な水のせいか、花が活き活きし、色も濃くみえます。「飲めますか?」「ああ、どうぞ」研修生は水筒に、その井戸水をいただきました。

立ち寄った「山村代官屋敷」にも、同じように水が流れていました。こちらは飲めません。でも「打ち水、感涼水です」と書いてある。

うれしいですね、書いた人のセンスがいい。ひしゃくで撒かせていただく。都会では打ち水イベントでもないと、こんな経験はできませんから。

「上の段」と呼ばれる福島宿の面影残るところ、ここで山菜の説明をしてくださった奥さん、ハイネックのおもしろいものをつけています。

「これはね、日焼け止め。草取りしてても、何してても、首周りが焼けるでしょ。便利だよ」私は初めて見ました。「どこに売ってます?ほしい、ほしい」

奥さんが地元のお店の名を口走ったのですが、聞き逃しました。買ってくれば、いいお土産になったのに・・。

この奥さんのおうちの玄関横にある大瓶、「昔は、味噌を作った瓶みたい。今のヒビから塩が吹くよ」。思わず瓶をペロリとなめたくなります。

木曽福島のまちから少し山側にある「駒の湯」という温泉宿に泊りました。フロントの女性が、「夜、ぜひ星を観にいってください。朝は、ぜひ少し森の中を歩いてください。何にもないところですが、ゆっくりしてください」と話してくれます。

おすすめどおり、すっかり酔っ払った夕食後、星を観に行くツアーに参加しました。と言っても、お宿のマイクロバスを厨房の料理長が運転して、すぐそこの山の上まで連れて行ってくれるだけです。

でも、これが良かった。天体観察の詳しい解説があるわけでもなく、ただただ真っ黒な空に瞬いているおびただしい星を見上げます。

宿泊客みんながてんでに「あれ何だろう?わ~、きれい」「流れ星~」「飛行機だよ」「天の川ってあれかな」とつぶやいたり、笑ったり。教えあっているうちに、なんだかみんなが仲良くなっていきました。

朝はおすすめどおり、宿からぶらりと散歩に出ました。フロントさんが言ってたように、おもしろい形の木があります。「嘆きのおじいちゃん」という看板。

この看板一枚で、その後の木や、景色が何かの形に見えるようになりました。コロロンと落ちてきた、青い松ぼっくり。森のお菓子・マコロンに見えます。お土産にしました。

木曽福島には時間が作ったいいデザインがあります。歩いていて見つけた屋根の塗料のはげれた穴。朽ちるまでの時間が、いい仕事をしています。

ワークショップ研修のまとめに使わせていただいた古い建物、これもまた味のあるきしみ方。階段は黒々とアートになっていました。ここを使って、何やら素敵な催しなどやってみたくなります。

まちの薬局、どこにでも売っている地元の漢方薬「百草丸」。我が家の常備薬として買ってきました。「1回20粒飲むんだってよ」というと夫が「え~、面倒くさい」

それがすぐに「おい、こりゃすばらしい薬だ!」と絶賛。「もう効いたの?」「いや、このスプーンだよ、ちゃんと一度に10粒ずつすくえるんだ。こりゃ、すごいよ」

まあ、最後のスプーンの話はともかくとして、1泊2日の間に、こういう小さなことが積み重なると、「木曽福島はいいところ」という印象が育ちます。

ひとつひとつは小さくとも、星座のように連なると大きな輝きに。と、私は思うわけです。"