逸品物語

お仕事で

連休に家を片付けていたら、静岡市呉服町名店街でやった第1回目、つまり全国初の「一店逸品運動」についての記録が出てきました。

「新逸品」を開発し、「逸品フェア」を開催、「逸品カタログ」を発行した1993年の私の仕事です。おお懐かしい!

以来この運動は商店街活性化手法として、各地に広がりました。約20年、この間の逸品運動について、そろそろまとめ書かなくてはと思います。

これまでもこのブログで「一店逸品運動」がらみのことは折りに触れ書いてきましたが、しっかりその気で書き始めますね。なにぶんにも記憶はあやふやです、間違いがあったらご容赦のほどを。

さて、当時私は静岡に住み、編集プロダクションを営んでいました。編集とはいいながらも広告の仕事や、取材や、何でもやっていました。

そして、「ゆとり研究所」の名前で、そろそろ地域へのアドバイスを始めたり、「余暇コーディネーター」の肩書きでラジオ・テレビへの出演やら、情報提供などをしていました。

そんな時に、静岡市の中心街、駅前の商店街通りにある「呉服町名店街」から声がかかりました。「商店街の環境整備(モールアーケードやモニュメントなどのハード整備)をするのだが、その前に先行してソフト整備をしていきたい。ロゴやスローガンを考えてほしい」という話でした。

静岡が駿府と呼ばれていた頃に、駿府に隠居した徳川家康が町割をし、駿府96ヶ町が定められ、そのころから呉服町と呼ばれてきたまち。古くは木綿座の長が住み、戦前まではたくさんの呉服屋が並んでいたとのことです。

そこにある78店舗が加盟する商店街、呉服町名店街は静岡の顔と言ってもいいところ。私も毎日のように、使っている商店街でした。

せっかく「ごふく」という言葉を持つのだから、呉服⇒五福という展開にして、5つの福に出会えるまち、という考え方にしようと提案しました。その「五福」とは「ゆとり」「遊び」「学び」「暮らし」「伝統」の5つです。

そしてさらに、その五福を五感(見る・聞く・嗅ぐ・味わう・触れる)で体感できるまち、としました。

スローガンコピーは【呉服町は五福町、5つの幸せがあるところ】と【五感の幸福(しあわせ)】としました。アーケードのかまぼこ型のカーブを活かしたいいロゴデザインもできました。

私が30歳代終わりの仕事です、ずいぶん力が入っていたなと多少反省しますが、今でも呉服町名店街のホームページに使われていることに、頭が下がります。

こうしたコンセプトワークは、コンサルタントがただ考えてポンとアイディアを持っていくよりもみんなで考えた方が時間はかかりますが、根付くものになります。と、私は思います。

ゼロからというわけには行きませんが、コンセプトづくりは商店街の役員の方々の意見などうかがいながらの作業でした。その間に、何度か商店街の事務所にうかがいます。

どこの商店街もそうでしょうが、表のきらびやかな世界と違って、事務局は質素な作業場風のところ。呉服町名店街の会議スペースも、古いビルの一室、積まれたチラシや幟旗に囲まれた暗いところでした。

そこで商店街のおじさんたち(失礼)が腕組みをし、タバコをふかしながらウンウンと考えるのですが果たして、ここの場に女性の役員は現れないのか?私は疑問でした。商店街のことは実はおじさんたちが考えていたんだ、と驚きだったのです。

しかも、一様に楽しくなさそう。(これまた失礼)商店街のこれからなんて、考えるだけでワクワクすることなのに、出てくるのはマイナスの話題が多く、正直、憂鬱がこちらに移りそうでした。

「でも、あそこのお店いいですよ」「最近あのお店、おもしろいですよね」なんて話をしても「??」という感じ。同じ商店街の店のことなのに、もしかしたらこのおじさんたち、自分の商店街について詳しく知らないんじゃないかな、と思いました。

スローガンやロゴだけができても、商店街のソフトが整うわけではありません。この人たちが変わらなくちゃ・・。

ちょうどその頃、横浜の元町でお店の「逸品」と称して目立つようにしている、「ああいうのいいよね」と報告があり、そういう取組をして行こうということになりました。

それぞれのお店の、逸品を調べよう。アンケート調査をして自慢のものや、自慢のことを出してもらおう、ということになりました。商店街から調査票を送りました。締め切りを決めても、返事はごくわずかでした。

催促をしてやっと、「自慢のものは特にナシ」なんて書いてくるお店もありました。まあこれは今でも、どこの商店街でもこんな感じだとは思います。

でも、「自慢はナシ」という、そんなお店が並ぶ商店街に、誰が行くのでしょうか。「こんな自慢、あんな自慢があるからぜひ来てね」という意気込みが伝わって、お客様も足をむけるというものです。

それでは、と、アンケートを確認する形で、各店の自慢を見に、ついでにお店の印象調査もと全お店に出向きました。私の事務所の女性スタッフ数人でお店に回りました。

多少覆面調査めいた部分もあったので、「店番のおじいさんがにらみつけて恐い」「店頭のメニューのロウ細工が埃だらけ」「すぐに店員さんがべったり寄ってきて店にいられない」など、ドキリとする率直な感想も出ました。

一方、「すごくいいものがあるのに、もっと自慢すればいいのに」「あんなことをしてくれるの、みんな知らないのでは」という、良い発見も多々ありました。

この各店の○も×もそっくり書かれた調査レポートを商店街全体に回覧しました。少々荒治療です。怒った怒った!プンプンになったお店もあれば、「へえ、うちの店は結構いいんだ」と自信をつけたところもありました。

レポートがきっかけで、同じ商店街のお店なのに入ったことのないお店に、他の店主が「レポートにあったのどれ?」なんて入れるようになりました。

そして、悪いところは直そう、良いこと、良い物はもっと自信を持って自慢しよう。という気分になっていきました。そう、これが世の中で初めて生まれた「一店逸品運動」の出発点となります。(つづく)"