長崎県雲仙市千々石「竹添ハウス」

ゆとりある記


長崎空港から車で小一時間。雲仙市千々石(ちぢわ)です。
千の石という名を持つほどに、この地は土を掘れば石が出て、
浜に行けば石がある。それを人々は、昔からひとつ、
またひとつと運び、積み上げ、棚田を造ってきました。

その高台から見下ろすと、すぐ向こうには、かつて海水浴
リゾートに使われたこともある浜が広がります。
小さいけれど、何か穏やかな規律に包まれたような印象の
まちです。

ここに数年前、北は仙台からひとりの女性がヒラヒラと
やってきました。
彼女はこの風景を見て、「ほれた」そうです。
「何にもない田舎」は、彼女にとっては
「何でもあるところ」でした。

知り合いのいない地で、彼女は毎日毎日、
ひとりまたひとりと、仲間を増やしていきました。
お金もつてもありません。笑顔ととびっきりの無鉄砲さが
あるだけです。そして、ここで何かやろう、
このまちをもっといいまちをしようと思い立ちます。

ジタバタドタバタしているうちに、もとお医者さんだった
建物を格安で借りることができました。
ボロボロ、藪状態だったその家を、少しずつきれいにして、
風が抜けるように、座れるように、眠れるように、
エスプレッソが飲めるように、整えていきます。

そんなことをしていると、まちのいろんな人たちが、
なんだなんだと顔を出し、この家を核にまたいろいろな
人が繋がっていきました。

訪れると、車止めには森林組合からもらった杉の皮が。
靴の泥落としには、向かいの公園で拾ったどんぐりが。
そして入り口には、庭の南天の枝を使った表札が
掲げられていました。

彼女がここに来なかったら、おそらく私は一生、
千々石という地名を知らなかったかもしれません。
そしてこのハウスが造られなかったら、足を運ぶことも
なかったはずです。

小さなまちでドクドクと、今までと違う鼓動が
動き始めました。

※彼女の名は松本由利さん、長崎県が主催する「ながさき観光大学」の学生さん。観光まちづくり実践コースで、私が個別アドバイザーをしております。