ガーデンシティ恵庭

ゆとりある記

新千歳空港と札幌の中間、交通の便に恵まれた恵庭市へ行ってきました。ガーデンシティと名乗るだけあって、花と緑が身近に感じられ羨ましいかぎり。でも、一番魅力的なのは、花と緑の街をつくる市民の方々でした。お家をオープンガーデンに、商店街を花散歩ストリートに、自分の趣味とまちづくりが一体になっています。「仲間になりたい、引っ越したい」とつい、私、思ってしまいました。 

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JR恵庭の駅です。人口約7万人、高齢化率約25パーセント、人口が少しずつ増えているというこれまた羨ましいまち。大学があるのでホームに若い人の姿が目立ちます。

そもそもこのまちに花が植えられ始めたのは、1961年のこと。ほんの数人の市民の方々が、花のまちにしようと思い立ち、活動を始めたとのことです。同じころ、地元の高校で花苗の生産の実験が始まります。農家でもこのころは花苗を作り始めていていました。地元産の苗を市民たちが植える、という恵まれた形で花のまちへの動きが展開していきます。じきに花壇コンクールも始まりました。

1970年に恵庭市ができて、20年経った1990年のこと。「花と暮らし展」という今も続く催しの中で、講演会があり、そこでニュージーランドの公園都市クライストチャーチのことを市民は知ります。「恵庭」という名前そのものが、もはや公園都市の名前にふさわしい。そんな思いで、市民有志が自費で視察へ出掛けます。そして、「クライストチャーチのようなまちにしよう!」とがぜんエンジンがかかります。その視察にご夫婦で参加されたという鈴木幸子さんのお宅へ伺いました。

「ここをちょっと覗いてみてください!」と声がかかり見ると、フクロウ君がお出迎えのユーモアのあるお庭。「ここの枝が無くなったんでこんな工夫をしたんですよ」と鈴木さんは笑います。視察後、普通の家の庭を見せる「オープンガーデン」を始めようという動きが始まります。いまでこそ各地で盛んなオープンガーデンですが、このころは我が家の庭に他人が入るなんて!と嫌がる時代だったでしょう。北海道ではもちろん初めて、日本でもごくごく早い時期のオープンガーデンへの挑戦でした。

庭の中をめぐるように細い道が施され、緑や花を観察できるようになっています。花の時期6月末ごろには毎日バス何台ものお客様がやってくるそうです。「花マップ」が毎年発行され、50軒くらいの家々がお庭を開放したり、外から見てもらえるようにしたり。観光業者でないのに、観光客のお世話をする、しかもボランティア。でも小林さんは「いろんな人と知り合えて楽しいの」と当たり前のように語ります。

風通しや日が入るように塀も工夫されています。こういうハード整備はご主人の仕事。冬には1メートルほどの雪が積もることもあるまち、寒い間は「春になったらどんな庭にしようか」とご夫婦で話し合って冬を越すのだそうです。

「狭い庭を広く見せる鏡の利用、これも視察で学んできたんです」なるほどこれはいいですね。こうしたオープンガーデンをめぐる「オープンガーデンツアー」も盛ん。北海道の一番季節のいい時に、お庭拝見できるなんて、想像しただけでワクワクします。これからの時代は、大きな観光施設などよりも、こうした市民の熱意を感じられるところが感動を呼ぶのでしょう。また、行きたくなります。

もうお一人、待っていてくださったのが、内倉まゆみさん。マスクからはじけるような笑顔が素敵です。ニュージーランドまではいけなかったものの、視察隊の撮ってきた写真を市民の方々へ見せて、説明に回った人です。彼女は喫茶店を経営、我が家だけでなくお店もガーデンに、と「ストリートガーデン」の動きを起こします。初期のころとはまた違うフラワーガーデンコンテストも始まりました。

花と緑に包まれた商店街です、「花さんぽストリート」の名称。10メートル幅の歩行空間にたっぷりとガーデンを。それぞれのお店にあった、テーマのあるミニガーデンが整えられて楽しめるようになっていました。

薬局の前の庭は「憩いのガーデン」。薬をもらうだけでなく、ここの木陰にある大きなベンチでゆっくり心をいやせるようになっています。

蕎麦屋さんの前は「和風ガーデン」。石灯籠が粋ですね。

バリアフリー化したそうで、その時にはがしたブロックを再利用してベンチにされていました。「手作りなんですよ~」。どんなガーデンにするのか内倉さんもアイディアを出し、それぞれの店主と考えているそうです。

紅葉する樹や、食べられるものがなる樹、野草、寄せ植えのフラワーポットなど、歩くだけでいろいろな植物、園芸技術、工夫、デザインも学べるストリートです。普通、商店街といえば売らんかなが先にあり、花の手入れなど後回しのところが多いのですが、ここは違います。買わなくても行きたくなる商店街、上質だなあ~と思いました。

歯医者さんです。虫歯がなくても行きた~い。

車窓から見えた交番です。童話に出てきそう。

恵庭は農業も盛ん、帰りに寄った農畜産物直売所は今が旬のカボチャが花盛りでした。都市部のスーパーでは一種類なのに、こんなに種類があるとは。どれも食べてみたい衝動が起きます。ああ、でも何個も担いで帰るわけにいきません。

ミニカボチャと白ナス、イタリアナスを買って帰りました。色的には花のようですね。

恵庭っ子は幸せですね。お母さんやお父さん、近所のおじいちゃん、おばちゃん、みんながなにかしら花の世話をしている。それを知っているし見ている、子供たちも手伝っている。植林もしている。自分たちが育てた緑と花に囲まれて、このまちにずっと住んでいたいと心底思うでしょう。

市民が楽しんで花の手入れをし、それが交流資源になって他所の人がやってくる。そんなフラワーツーリズムが開花しています。それを行政が上手に黒子になって市民を支えている、そうした市民と行政の関係も花開く恵庭でした。「恵まれた」「庭があるまち」、「庭があるから」「恵まれているまち」、恵庭にはこれからちょっと飛行機に乗って花時間を楽しみに来る人が増えると思います。