古くて新しい 

美味しい話題

ジャガイモをすりおろし、絞った液からデンプンを取り出し、絞りかすのジャガイモの繊維と混ぜて団子を作る「だご汁」を教わりました。雲仙市の伝統の味ですが、初めての者には新鮮に映ります。「雲仙こぶ高菜」の古漬けを「ライスピザ」や「グリッシーニ」に使ったものも試食。古漬けの味がワインに合いそうす。古いものも出会い方で新しくなる、そう実感したものです。

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教えていただいたのは馬場節枝さん。雲仙市で私がかかわる「雲仙人サロン」でのことです。馬場さんは雲仙市伝統野菜を守り育む会の事務局、雲仙こぶ高菜加工所もされています。この日は、伝統野菜を知りながら、地域に伝わる郷土料理も学ぼうという集まりでした。

まずはジャガイモのだご汁です。だごとは団子のこと。小麦粉のだご汁などは全国各地にありますが、ジャガイモのとなると、ジャガイモ産地ならではなのかもしれません。雲仙市は北海道に次ぐジャガイモ産地、しかも年に2回もとれます。農作業から戻ったら、ご飯を炊くなどせずにすぐにお腹にたまる団子が作れる、ジャガイモは便利だったのだそうです。

ジャガイモをすりおろし、布巾で絞ります。布巾の中にはジャガイモの繊維が残り、ボールには水分がたまります。この水分をしばらくほおっておくと、底の方に白い粉がたまる。これがいわゆる片栗粉、デンプンですね。上澄みの水分は捨てて、その白い粉だけを残し、そこに絞りかすというか、ジャガイモの繊維部分を混ぜます。混ぜていくと少しねばねばしてくる。これを、適当に一口大に丸めて、具沢山の汁の中へポトン。白玉団子のように、ぽわ~んと浮かんでくれば火が通ったということで出来上がり。この日は、煮干しと昆布でだしを取り、ニンジン、ゴボウ、厚揚げ、ネギなどの具、味付けは薄口しょうゆ。各自がまるめて放り込み、童心に帰った思いでした。

さてこちらは「雲仙こぶ高菜」です。茎の部分にまるで天狗の鼻のようなこぶができるので、この名があります。雲仙市に伝わる伝統野菜、イタリアのスローフード協会の本部が未来に残したい味「味の箱舟(アルカ)」の商品として、日本でただ一つ認定しています。地元では当たり前のものですが、世界的に希少。これを守るのが馬場さんたちの活動です。普通の高菜よりも柔らかく、生で食べられる、漬物にしてもシャキシャキと食べやすいのが特色。こぶのところが特に美味しい。

その古漬けを使ってこの日はグリッシーニを焼きました。イタリアのカリカリ硬い、細長いパン。ワインやチーズと一緒に食べられます。ここに高菜の古漬けが入るとはビックリでした。刻んだ古漬けを粉と混ぜ、オリーブオイルをまぶして細長く伸ばし、オーブントースターで焼きます。

これは子供たちも喜びそう!もちろん大人たちはワインと一緒にですね。イタリアの人たちは??と驚くでしょう。漬物の味が小麦粉とよく合います。馬場さんはスローフードの関係でイタリアに行ったときこのパンに出会い、「雲仙こぶ高菜の漬物を入れて焼いたらお美味しいだろうな」と思いついたのだそうです。

同じく、古漬けを使ってもう一つ。ライスピザです。ご飯を天板の上に敷き詰めます。そこに高菜の古漬けを細かく切ってまんべんなく広げます。チーズをたっぷりのせて、オクラをトッピングすればあとはオーブンで焼くだけ。この発想も素晴らしい。馬場さんのアイディアに脱帽です。

ご飯はあまりもので十分、チーズと高菜の古漬け、同じ発酵食品の味がぴたりと合います。高菜の古漬けは、お茶漬けやおにぎりの具程度が普通でしょう。それが、発酵食材として、また味付け役も引き受けて、グリッシーニやピザに活躍となると、古漬けは大事な存在となります。残っているからしょうがなく使う、ではなく、グリッシーニやライスピザのためにわざわざ古漬けがほしくなります。雲仙こぶ高菜は繊維がやさしいので、こういう活躍ができるのでした。

ジャガイモのだご汁は、繊維がホワホワと開いて、どなたかが「マリモのよう!」とおっしゃいました。きれいです。もちもちしていておいしいし、味も絡みます。今日は醤油味でしたが、これをコンソメ味にして、ベーコンやキャベツなどと合わせたら、これまた素敵な洋風のだご汁になりますね。雲仙のどこかのレストランで出せばいいのに~。産地というのは一キロいくらで売れるかばかりを気にして、その料理・文化まで広げたり創ったりしないものです。都市部の人がジャガイモを箱で買ったときに、このだご汁の作り方の印刷物が入っていたらどんなに喜ぶでしょう。

高菜もまずは地元の人が漬物としてだけでなく、その活用法を知り、広げていけば、途絶えることなく伝統野菜が伝承されていきます。馬場さんのような活動をもっと世に出さなくてはと強く思いました。

この講座をオンラインで受講した埼玉県の方が、翌朝「早速作ってみた」と写真を送ってくださいました。少し姿は違いますが関東風のジャガイモのだご汁です。これからはジャガイモを見るたびに、雲仙市のことを思い出し、だご汁も作られることでしょう。「雲仙こぶ高菜漬けも手に入れたい」とその方から問い合わせもありました。きっと、次にはグリッシーニとライスピザを作られるのでしょう。遠く離れていても、こういう関係が作れるんですね。

伝統の、昔からの調理法は現代では新鮮に映ります。そして古漬けも工夫次第でニューアイテムになる。そんなことを学ばせていただきました。