ヒポクラテスの会

美味しい話題

ギリシャ時代の医師・哲学者ヒポクラテスの教えを掲げ、地域の「食」を大事に学び楽しもうという市民グループ「ヒポクラテスの会」が雲仙市で発足しました。このコロナ禍において新しい動きを自主的に起こす、女性16人のエネルギーに驚きます。イリコたっぷりの炊き込みご飯、玉ネギの漬物、ジャガ芋の味噌汁、地元の幸をほおばりながら、今後のおいしそうな予定が決まりました。

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ヒポクラテスという人の名は聞いたことがあっても、いったいどんなことをした人なのか、どんな言葉を残したのか正確に知らなかった私です。数か月前に、「こんど“食”にこだわった研究会を作ろうと思って・・・、自分が食べたもので自分の身体はできているってヒポクラテスって人が言っててその名前の会にしようかと思うの」と伺っていました。それがまさかこの時期に、本当に実現するとは!と驚きました。

6月11日雲仙市の吾妻町ふるさと会館、10時頃にこちらを覗くと、もはや女性たちが調理室で戦闘態勢(笑)です。ゴボウをささがきにしている人、お米を研ぐ人、人参を刻む人、玉ネギをザクザク切る人。会の発足以前に、後で食べる昼食を作ってしまおうというわけです。おそらく初めての同士の方々も多いのでしょうに、三角巾とエプロンをつけると仲間になってしまうのが女性たちの特権ですね。

この日のメニューは「自転車飯」「玉ネギ漬け」「ジャガイモと野菜の味噌汁」、これに有志がお持ちくださった、採れたてスイートコーン、葛の黒蜜黄粉かけ、藍のお茶です。「じてんしゃめし」というのは、雲仙市の南串山、小浜に伝わる郷土食。その昔、自転車大会があったときに炊き出ししたイリコ入りの炊き込みご飯のこと。自転車のように早くできるからこの名があるとか・・。それにしてもさすが産地だけあって、入るイリコの量が半端じゃないです。

そして、いよいよ皆さん着席し、会が始まりました。ヒポクラテスは医師になる人が誓う言葉を残したことでも知られますが、私たちに身近なのは名言・格言の方でしょう。「人は自然から遠ざかるほど病気になる」「歩くことは最良の薬である」「病を治すのは医師でなく身体である」「汝の食事を薬とし、汝の薬は食事とせよ」などなど、今、この時期に実に心に染みる言葉です。訳し方で日本語表現も様々ですが、この会では「あなたの食事こそあなた自身の薬である 君の身体は君の食べたモノで出来ている」と書かれたものが配られ、講師の古川鶴さんの指導で声を上げて読みました。

あわせて食べ物のことわざが古川さんから紹介されます。「朝しょうが夕さんしょう」「あまってたらんは餅の粉」「医者とみそは古いほうがいい」それぞれに深い意味があり、解説されますが、私的には「家柄より芋がら」が納得いきました。家柄を自慢するよりはすぐに食べられる芋がらの方がいい、という意味です。とはいえ、今の若い人には芋がらとは何かから伝えなくてはなりませんが。

ヒポクラテスの教えにしろ、日本のことわざにしろ、昔の人の言い伝えには学ぶことが多いです。このように今を生きる私たちは次世代に正しいことや本質を伝えていかねばなりません。とはいうものの、今は目の前の暮らしでせいっぱい、私は何か残せるのでしょうか、と自問自答です。

そうこうしているうちに食事の用意が整いました。いただきながら今後の話をします。行政が音頭をとって作った会ではない、コンサルタントが後押ししているわけでもない、本当に女性たちが自分たちの気持ち一つで集まった会です。年10回の活動にしよう、3班に分かれて毎月内容を担当しよう、来月はどうする?なんて話し合いが緩く進みます。「あまり難しいことに取り組むのではなく、市内の美味しいものを食べに行ったり、主婦仲間から産物を活かした料理を教わるなど、楽しく活動していきたいの」とのこと。

コロナ禍で委縮してしまった社会、そこに新しい血を流すのはこういう女性たちの素朴な動きなのではないでしょうか。
炊きあがった自転車飯をかき込みながら、コロナの危機迫る東京から一人参加した私は、久しぶりに人間らしい時間を過ごした気分でした。