雲部のもてなし

美味しい話題

地域の味で集う「夜なべ談義」は、わがスローライフ・フォーラムの名物です。

今回の篠山市雲部「里山工房くもべ」のお料理には皆が感激でした。

焼き豆腐、なます、押し寿司、ぬた、白和え、などなど。献立は素朴ですが、身体に良いものを、手間をかけて料理している。

都市部はもちろん、田舎でもこういう味は消えつつあります。雲部の人の心意気が、篠山市の印象を高めてくれました。

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毎回この「夜なべ談義」をこしらえるのには苦労します。地元の味でお願いしたい、他所からの何か持ち込みもあるかもしれない、安上がりに。普通の旅館やホテルでは面倒で断られます。

でも、何処の土地でも同じような、お刺身、天ぷら、ミニステーキに頼るような宿料理で交流などしたくありません。


たいていの場合、板前さんが柔軟な発想や技がなく、「出来ない」の一言で終わります。

というなかで、「里山工房くもべ」は「了解!」、即答でした。「とことん地元の味を作りましょう」と。全国各地から篠山市に集まる、ある意味“観光慣れ”している人たちが、何を喜ぶのかお判りなのでした。


廃校になった小学校ですから、ハードは宴会用にはできていません。一階に、ランチ中心のレストランはある。でも、きっと80人近い人たちのパーティーは初めてだったかも。

下見に行ったとき、ここの責任者・今井さんの笑顔と自信に惚れて、お願いしました。


うかがう3日前にはこんなメールが届きました。

「3月9日丹波篠山雲部へ御出でくださる皆々様方へ 丹波篠山雲部 里山工房くもべの今井でございます。いよいよ3月9日スローライフ学会前夜祭(夜なべ談義)が迫ってきました。 今、丹波篠山は、紅梅、白梅咲きそろい、野には土筆や蕗の薹が我先に土中から顔出しています。また、山野辺には藪椿が咲き、まさしく春到来を感じさせます。さて、当日、皆様ご賞味いただく献立も決まりました。今日は徳利、盃、手塩皿類、料理を盛る鉢類も準備できました。明日からは黒豆を煮たり、蕗の薹を収穫したり、鹿肉を調理したり、大根、白菜などなどの野菜も収穫をして水洗いをするなど、皆様を心からおもてなししたく、喜心、老心、大心の心構えで、里山工房くもべのスタッフ一同取り組んでおります。どうか心安く弥生の夜を丹波篠山雲部でお過ごしください。重ねて心よりお待ち申し上げております。合同会社里山工房くもべ 代表社員 今井進拝」

このメールを読んで胸が熱くなりました。食事に行く予定のところから、こんなに温かなお手紙をいただいたことはありません。

このお手紙をスローライフ学会参加者、皆が読んで、いざ、篠山市雲部へ、となったのです。「篠山はなんていところなんだろう」と、行く前から誰もが思ったことでしょう。


前日、チラリと様子を見にうかがうと、私よりずっと先輩の皆様が、机椅子を運んだり、棚に布をかけたり。食器は昔ながらのものが集められています。紙コップ・紙皿などの出番はありません。頭が下がりました。


そして当日、ずらりと並んだお料理が凄かった。最初に目を引いたのは錦糸卵が春らしい「黒豆寿司」、名産の黒豆が炊き込まれたご飯の押しずしです。「さばずし」もピカピカ。昔は魚がここまで届かない、鯖は貴重だったのです。


なますを豆腐であえるここ独得の「豆腐なます」。一軒ある手作り豆腐屋さんの炭火で炙った焼き豆腐を煮たもの。「たいたん」という言葉にほっこりします。

名産の山の芋と栗を使った「きんとん」、「鹿肉の香味揚げ」「ネギのぬた」「菜の花の辛し和え」等々、有名な「牡丹鍋」も野菜一杯で湯気を上げていました。

これらをどのように出すのか、これが雲部の知恵の見せどころでした。大きな部屋はないけれど、学校なので廊下はあります。廊下を活かしたバイキング方式になりました。


理科室で作った猪鍋を、廊下の窓から顔を出していただくというバイキングも。これもアイディアですね。廃校が、この日は見事に生き返った感じです。

おもしろい趣向で、取り皿にいただいてくる、様々な田舎料理。その味に、会場が狭いなんて文句は出てきません。皆ご機嫌で、次々にスピーチをしたり、お土産物を配ったり。

テーブルの上のお皿には、好みのいろいろな料理が並びます。料理を挟んで地元の人と、他所の人が語る語る。そして料理を取りに行ったら、座る場所を変えてまた話す。


「あ、それまだ私食べていない」「昔はこういう料理はお葬式や法事なんかでよく作ったの、今はなかなかね」「こんな焼き豆腐食べたことないです」「バーナーで焼いてるのとちがうよ」「猪って柔らかい、美味しい」「味噌味が独得でしょ。スープがおいしいよ」「地酒も地ビールもいけますね」「油揚げはこういう風に甘く煮なくちゃね」「黒豆納豆の天ぷら、食べてごらんうまいよ」

途中で今井さんが、料理を作ってくださった地元の女性たち、配膳係の助っ人たちなどを皆に紹介してくださいます。

マイクを持ってスピーチなどしない、女性たちですが、この料理がすべてを主張し、本質を語っていました。


米、黒豆、山の芋、野菜を育て、収穫し、どうすれば美味しく食べられるのか、代々伝えてきた、この地の人の文化・技に抱かれた思いです。

訪れた私たちも、地元の方々のご苦労が分かるので、握手や拍手、感謝の夜になりました。

もしこれが、普通のホテルの宴会場で、何処にでもある料理を囲んだら、こんな感動や交流はなかったでしょう。今回篠山を訪れた私たちの仲間が、「篠山よかったよ」と語る半分以上は、このおもてなしによるものと確信します。

ネオンや明るいビルの無い、真っ暗な里山雲部の夜。地元の人と、外からの人がそれぞれに輝いていました。

雲部で知った本当のスローフード、スローライフです。ありがとうございました。

※写真は一部、事務局スタッフの藤井頼暁さん撮影のものをお借りしました。