心温もる農家民宿「かじか」

お仕事で

ファンヒーターの前に象の鼻のような武骨な装置があり、熱風がコタツの中に誘導されている。夕飯は民宿ご夫婦と一緒に、地鶏の鍋を囲む。古い大きな部屋は寒いので電気毛布に頼る。朝、「寝坊したわ~」とご主人がニコニコ。こんな風に、効率的でスタイリッシュではないけれどなんだか心が温まる、そんな宿はいい宿だと私はいつも思います。京都府綾部市水源の里「市志」、農家民宿「かじか」で。

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今でこそ、大雪の話題ばかりですが、ここに泊ったのは、昨年12月中旬のことです。綾部市水源の里の役員さんの集まりにうかがった日、話し合いが始まると、皆さんからのお話がおもしろくて、時間が過ぎるのを忘れ、ミーティングを切り上げないでいました。事務局の方がしびれを切らし、「そろそろ終わりにしないと皆さん帰れなくなります」とアドバイス。

都会人はダメですね。私、脳天気で、いつでも地下鉄が走り、タクシーがつかまると思っている。天気のことなど頭にない、ノー天気なわけです。案の定、会合をお開きにしたころには雪模様になっていました。薄いコートをはおっただけで来た私は反省しきりです。

で、今宵の宿、中上林(なかかんばやし)市志(いちし)の農家民宿「かじか」へ連れて行っていただきました。ご主人はお会いしたことのある、阪田薫さん。今日は奥様もご一緒です。お家に入って目を引いたのは、大きな太い象の鼻のようなもの。これでヒーターの熱風がコタツの中の足元へ送られていて、足元はポカポカです。以前どこかで見たことがある、、、、思い出したのは那須塩原市の農家で使われていた様子でした。これは何というものなのか知りませんが、なかなか都内のマンションでは見られません。

賢い装置だなあ~と感心していると、お夕飯になりました。はて?黄な粉の塊のようなもの。これは何だろう?、「当ててみて」と奥様は笑いますが。結局かぶりついて、つぶしたサツマイモと判明。山里の味ですね。

大きな鍋で、今夜は水炊きです。ご近所の方も加わって、グツグツ煮える鍋をつつきます。「上林鶏」の名をもつ、地元の鶏。親鳥をつぶして売っているとのことで、肉の味は旨味が濃厚です。「お酒ありますか」とねだる私に、ご主人が「うちは飲まないから、さ~てあるかなあ」、奥さんが「前にもらったこういうのならあるよ」と地酒・綾小町の小瓶を出してくださいました。私一人で、湯のみで、グビッとです。

なんだか実家に帰ったような雰囲気。話題は「地域おこし」について、真面目に話しているのですが、お二人を前に気持ちはほっこりしてきます。身体もすっかり温まりました。

さあ、寝ましょ。古いい大きな部屋に私一人。襖も床の間も久しぶり。「電気毛布、適当に使ってね」とご主人。お風呂をいただき、布団に入ると、顔や鼻先はひんやりなのですが、毛布のおかげでポカポカでした。

翌朝の雪景色です。夜中、ドサッと音がしていたのは雪が屋根から落ちる音だったのでした。朝は、象の鼻が、部屋に向かって温風を運んでくれています。

「寝坊しちゃったよ~~」と言いながら、お二人が慌てて作ってくださった朝ごはんの美味しいこと。お米が実に美味しい、具だくさんのお味噌汁も、素朴なおかずがまた何とも嬉しい。

食後をゆっくりできずに名残惜しく帰る私を、ご夫婦が見送ってくれます。無機的なホテルもいいですが、緩急自在、農家民宿も計り知れないよさがあります。

こういう民宿の良さが分かる人で、あり続けたいなあと思いました。なんともいい宿でした。「かじか」が鳴く頃に、またうかがいたいものです。

おやおや、道に2つの大きなハートが描かれています。仲良し阪田さんご夫婦の様でした。