82歳で訴えること
「もう歳だから」と人生そこで、緩めてしまう方が多いものです。でも、社会に訴えることを諦めない方もいる。八重樫信之さん、ハンセン病の問題を長年追ってきた高名な写真家。82歳。有名でも、高齢でも、皆と同じく名前を伏せて、公募写真展に出品し、入選。病床から応募した、その2週間後に亡くなられたそうです。最後の発表作でしょうか。人間は最後まで訴えることができる、そうすべきだ、と学びました。作品はいま都立美術館「視点」展に飾られています。
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今年で50年を迎える、公募写真展です。夫がこの団体に属し、今年は実行委員長とあって、私もお手伝いに駆けつけました。応募総数683名、入選・入賞244作品。会場には約700枚のパネルが並びます。
インスタ映えする心地よい写真とは違う、リアリズムというか、ドキュメンタリーというか、社会的な作品というか。タイトルを見ただけでも「リニアが通る村」「送電線は何処へー福島の14年ー」「母患う」「超高齢社会の断面」など、今の現実が突きつけられるような作品が並びます。
その中で、注目したのが冒頭の八重樫さんの作品でした、「それぞれのカミングアウト」。同じタイトルでフォトエッセイも出版されています。本も多く出され、写真展も何度もされている方ですが、この公募写真展に応募し、入選すれば壁面に写真が並ぶことになる、そして多くの人の目に止まる。ハンセン病の問題を来場者に訴えることができる、図録に印刷され発信することができる。世に問う場としてこの公募写真展を選んだのでしょう。
作品はすばらしく、詳しい写真説明に心打たれるのですが、病の中で写真を整えキャプションも用意されたと伺い、さらに頭が下がります。入院とならば、身の回りのものを用意して、自分の身体のことだけを考えるでしょうに、それが、社会に訴える作業をされる、写真を梱包し、説明を書き・・・。そういう姿勢が彼の生きざまそのものだったのだと感じました。そんなエピソードをフロアーレクチャーで聞き良かったです。
ふと見ると、レクチャーする我が夫も、聞きいる参加者にも高齢者が多い。この人たちも、何らかのことを注目し、写真という手段をとって、世の中を良くしようとしているのかしら・・・。展示された写真には、それぞれに物語があるように思えます。
果たして私はこういうことが出来るのか。82歳で世直しの為の拳固を挙げる、どんな時でも社会に向き合う、そんな生き方を目指さねば、と思いながら帰ってきました。若い方の姿もちらほら、きっと、10歳で訴えること、17歳で訴えることもある。楽しこと美味しいことばかり追いかける日常を反省です。