諸山宿舎(もろやましゅくしゃ)

ゆとりある記

 かつて、雲仙市の仕事をしたときに散々お世話になった地域おこし協力隊の諸山岳志(もろやま・たけし)さんが、いつしか結婚され、いつしか古民家を直して宿泊施設にされ、いつしか坊やを育てていました。すっかり地域に根差し、すっかり素敵なお父さんになっている。素敵なくらしだなあ、と思います。「暮らすように泊まる」がテーマの宿、1泊ですが、素敵な暮らしのおすそ分けをいただきました。

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雲仙市は広くていろいろな要素がありますが、熱い温泉で知られる小浜温泉(おばま)に「諸山宿舎」はあります。小浜は100℃近い温泉が各地に湧いているかと思えば、清らかな湧き水もコンコンと、さらに「炭酸泉」というぬるい冷泉も湧いています。観光客なら必ず見物する、その「炭酸泉」の近くが宿舎の場所です。

暑い中、ウロウロ探していると「こんにちは~~」と挨拶してくれる中学生が、「モロヤマシュクシャ?知ってるよ」と案内してくれました。振り返ると海が見える急坂の途中に、宿舎はありました。

錆びた波打つトタンが渋い!看板?はこじんまりと。フロントの矢印も瓦にこじんまりと。

諸山さんが居ました~~~。物腰柔らかな雰囲気は、協力隊の頃から変わりません。彼のすごいところは、弱そうに見えて強いところです。都会をウロウロしているITビジネスマンなどとは全く違う、シンの強さです。私の仕事を手伝ってくれている頃からそうでした。

だって、神奈川県から移住して、協力隊を経て、この古民家を手作業で改築してゲストハウスを造ってしまうのですから。あっぱれなのです。

「ただのゲストハウスだと、地元の人が立ち寄ってくれないので駄菓子屋も始めたんです」と語るフロントには、買いつくしたいような懐かしのお菓子や、古い雑貨が並んでいます。確かに、ここに入ってきたときに、庭に中学生が当たり前のように居ました。

歩き回るニワトリ、烏骨鶏の小屋を学校帰りの男の子がのぞき込んでいました。毎日、通学途中はここに寄るのでしょうか。そんなゲストハウスなのです。

いただいた部屋は2階。窓から中庭の烏骨鶏、洗濯ものがみえます。数年前に立ち寄ったときはまだまだリフォーム中で、諸山さんはこの中庭でほとんど大工さん状態で動いていました。赤ちゃんをチラリと見せていただきましたっけ。

ご夫婦で美術系の大学を出ていらっしゃるだけあって、並んでいる本が素晴らしい。冷房のなかこの本たちを紐どくのもいいのですが、やはり「温泉だ」と出かけました。

近くにある「浜の湯」へ。諸山宿舎の籠に入ったシャンプーやタオルとともにブラリです。少し陽が陰ったからでしょうか、共同湯に結構人が集まってきています。

熱い湯、ぬるい湯と湯舟は分かれていますが、関東から来た者としてはそれほど熱くはない。でも源泉は100℃近いのですから薄める水の方がたくさんいりますね。

塩湯です。温まります。暑い日なのに、さらに温まって、即、服は着れません。裸のまま、地元のおばちゃんと、東京からのおばちゃんが立ち話。話題はひたすら「暑かったね~~」。

とはいえ暑くてもさっぱりとして、外へ出ると、陽はゆっくり沈もうとしています。本当は夕陽を見たいのですが待ってはいられない。いざ、ビールタイムとなりました。

それにしてもこの町は不思議です。盆栽はきっと湧き水の水路近くに並べているのでしょう。水やりが楽だから。猫たちは、今は湧き水の水路近くに寝転んで、冬は温泉の流れる溝近くでぬくぬくするのでしょう。それが実におもしろいのでした。

この夜、久しぶりに深く眠りました。

朝7時。頭の上を、鳥の声が渡っていきます。上の方の窓ガラスに鳥の影がみえます。いい朝です。ベットからでて下を見ると、諸山さんが烏骨鶏の鶏小屋を自宅から運び出し、放しました。コケコッコ~!見事に鳴きます。自慢するかのように、いい声です。久しぶりに聞く鶏の鳴き声です。こういうのが本当の朝なのでしょう。

諸山さんがこだわった、炭を混ぜた漆喰。それが塗られた部屋の、カーテン、ベッドすべてが同じ色調で揃っています。真っ白よりずっと落ち着く色です。

台所用品は一通りあるので、近くの魚屋でお刺身など買ってきて、ここで一杯やっても良かった。などと思いながら、冷蔵庫にある冷凍のフォカッチャをお仲間に温めてもらいます。同じくお仲間が淹れてくれたコーヒーとで朝ごはん。オリーブオイルとあいます。

さてと、急ぐ旅でもないし、ゆるりと出かけましょうか。

おやおや、拓(タク)ちゃんが出てきました。私たちに見せたいというレゴの車を持っています。諸山さんのパートナー、朗(アキ)さんは既にお出かけ。

「タク~、こども園に行こうよ~」諸山さんが緩く促します。「はい行くよ!ほら!」と、私なら大声で仕切るのですが、彼はそんなことはしません。「行く~? 行こうよ~」の繰り返しのあと、父息子はのんびり出発しました。

 

海の見える坂の上、ユーカリの樹に囲まれて、コケコッコーの声を聴き、温泉に入って育った拓ちゃんはどんな大人になるのでしょう。きっと諸山さんのように、雲仙、小浜を愛する、柔らかい強い大人になるのでしょう。

なんて嬉しいことでしょう。こんな時間を、ありがとうと思える一泊でした。