かんざらし

美味しい話題

湧き水で冷やした白玉を甘い蜜で食べる「かんざらし」は長崎県島原市の名物。暑い日、お店は混んでいて外で待つこと小一時間。子連れの親は大声で携帯電話、子供は湧き水で水遊び。路地裏は喧噪で水音が聞こえません。一方、店内では地元のおじいちゃんたちが仲良く甘味をすすります。「甘いのだけじゃなくて、トコロテンも食べるのがいいよ」と私に説きながら、穏やかに、静かにツルリ。暑いうるさいと心がざわついていた私、ひんやり静まりました。

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この日は本当に暑い日でした。路地をくねくねと入っていくと、目指すお店「銀水」があります。「かんざらし」を食べられるところは市内に20件ほどあるとかですが、「銀水」が大正時代に始めた元祖のお店。

 

並んでいます。カップルも、フルムーン風も、家族連れも。この店は一度閉店していたものを、島原市が買い取り復活させたもの。その物語は今年、地元のテレビ番組にもなりました。

お店の目の前が「浜の川湧水」と呼ばれる湧き水。大変な量の清らかな水がわんさか湧いています。大人でも飛び込みたくなるのですから、子供たちは走り寄って遊びたくなって当然でしょう。

でもここは、水場をきちんと分けてあって、使い方のルールがあります。今も地元の人が普通に使っているところ。子供が遊ぶプールではありません。まちの「宝」を観光客が汚したり、占領してはならないのです。

スカートがそんなに濡れるまで、水場に入ってはいけない、と、大人たちはなぜ言わないの?ママはずっと遠くの誰かと、大笑いしながら携帯で会話中。若いおじいちゃん、おばあちゃんも、元気に遊ぶ子供をほほえましいくらいで見ています。

暑いし子供はうるさいし、クラクラしてきたところで私と友人は入店できました。店内にも水が流れ、ラムネが冷えて、緑が茂り、急に癒されます。壁には、かつてこの店を支えてきた初代と二代目のお写真が。

テーブルにおじ様たちが並んでいます。何を話すでもなく、静かに召し上がっている。声をかけると教えてくれます。「甘いのだけけより、トコロテンも食べるとすっきりする」なるほど、甘辛セットがジモティーの食べ方なのでしょう。

目の前のタイルの水槽に、白い可愛い白玉が出番を待って冷えています。材料のもち米を寒の時期にさらして粉にするから「寒ざらし」なのだそうです。外の暑さと違って、ここは見た目に涼しく、水音が清らか。

穴杓子で白玉をすくい、何度も振って水を切り、器に盛ります。そこに、ウイスキーの角瓶に入った「蜜」をかけて出来上がり。何種類ものお砂糖を使って作る「蜜」はそれぞれのお店の秘密だとか。

つるん、あま~い、つめた~い。

あっという間に食べてしまう量ですが、なんともほっこり落ち着きます。やはり、甘さは暮らしに必要ですね。特に疲れやイライラがあるときには・・。地元の方々の穏やかなムードと、水の美しさと、白玉の舌触りと、蜜の甘さで、すっかり気持ちが安らぎました。「かんざらし」はストレスの多い、大人や子供へのお薬なのかもしれません。