時間が止まったまま

ちょっとしたこと

みんなの話題は、今や「ワクチン終わった?」「無観客?」です。東日本大震災の復興五輪なんてテーマは、どこかに消えました。そんな中で開催の「止まったままの時計-フクシマ10年-」写真展。写真家の夫と、その生徒さんの共同制作です。原発事故で人だけが消えた家々、草に覆われた何台もの車、倒れたままの墓石、止まった時計。あ、忘れてた、ごめんなさい!と心が痛みました。

(写真は私が展示されているものを撮ったので少しゆがんでいますごめんなさい)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夫も含めて6人の作品です。昨年の公募写真展「視点展」で、トップの「視点賞」となり、本来は昨年、都立美術館に飾られるはずだったのが、コロナで中止に。そのため、他の作品を加えてモノクロ52点を展示、この度自主開催に至りました。

じわりじわりと迫ってきます。惨状を露骨に見せるのではなく、震災からの時間や、人の暮らしの変化、心の様子が伝わります。でも、10年経っても、状況は止まったまま。むしろ、人々の幸福度は限りなく後戻りしているように思えました。夫は何度も、生徒さんたちは2回、現地を訪ねて撮影したものです。


展示順に自分の作品についてお話をうかがいました。写真展のDMに使われた浪江町の旧請戸小学校。津波が襲った時間で時計は止まっています。ここは震災遺産になるとのこと。撮影された清水和雄さん。「相当なお金を注ぎ込んだ立派な校舎、これは展望台だったのでしょうか。ここまで15メートルの津波が押し寄せたそうです。僕らは登ることはできなかったので、手前のススキを入れて撮りました」

双葉町消防分団の建物には、ヘルメットが置き去りになっていたそうです。よっぽど混乱しながら逃げたのでしょう。夫・金井紀光の写真です。「最近の災害も含めて、人を助ける側の立場の人がずいぶん犠牲になっている。そんなことも考えてほしい」

浪江町駅近くの居酒屋風のお店。撮影したとみたやすよさんは語ります。「ふとのぞいたら、飾ってあったんでしょうねお雛様が転がっていて。家はそんなに壊れていないんですよ。普通なら、少し片付けたり、起こしたりしますよね。どれだけ慌てて避難したか伝わって来ました」

双葉町の国道6号線から少し入ったところに車が何台も。草に覆われて。宮本壽男さんの撮影。「まだまだ乗れる車ですよ。駐車場だったのか?ほんとに身体一つで逃げたんですね。放射能の恐ろしさをまのあたりに感じます。この車どうするんだろう」

富岡駅前で女性が一人ポツンと座っています。説明には彼女の家族は双葉町から埼玉県加須市へ避難、息子さんたちはそこで仕事を探したとのこと。「でもこの方だけはここに戻って来たんだそうです。一人座っていらして、誰かお迎えがあるのかもしれないけれど。いったいこれからどうして行くのかなあと思って」撮影した三枝道夫さんのやさしい気持ちが重なります。

浪江町の「希望の牧場福島」の牛。被爆した牛は殺処分と決めた国に抵抗し、今も300頭近くが飼育されているとか。本木進さんの撮影。「牛は原発事故の生き証人だからとここでは飼われているそうです。望遠レンズでたくさん撮ったうちの一枚です」牛の額のつむじがグルグルと回り、怒りが噴き出ているように見えました。

会場に足を運んだ方々は、次々にいろいろな質問をします。やはり、リアルな写真展はこういう生々しいやりとりができるのがいいですね。最後まで見て話を聞いて泣き出すご婦人も。

コロナやオリンピックのニュースばかりの毎日。私たちの思考はどんどん単細胞になっていました。故郷から逃げ出した人々の時計はその時のまま、止まったままなのですね。今も、今日この時も原発事故は放られたまま。避難した人は忘れられたまま。この写真展に、「コロナぼけしてるんじゃないよ!!」と怒られた感じです。写真家6人の皆さん、喝を入れてくれてありがとう。