食べなかった恵方巻

ちょっとしたこと

10数年前からか、関東でも急に広がった「恵方巻」。もともと習慣にあった西のかたには当たり前でしょうが、関東人の私の幼少時には記憶にない風習です。あるコンビニが仕掛けた流行などと聞くと嫌になり、高級太巻など見ると一言いいたくなる。で、今年も豆まきだけで済ませた節分でした。巻きずしは好き、行事も大切と思うのですが。天邪鬼でしょうか、豆をぶつけられちゃいますね。

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ちょうどこの日、あるお宅のマンションににうかがうと、ロビーには豆ガラとヒイラギが活けられ、
小袋に入った福豆がたくさんテーブルにのっていました。ここの奥様が、自主的にこのロビー飾りをされていて、ほほえましい室礼です。「マンションの子どもたちが、お豆を持っていくのよ」と。

このお宅はもともとご主人が大阪出身、節分の日に海苔巻きを食べる風習があったそうで、今も細い細い干瓢巻を作り、黙って召し上がるとか。高齢のご夫婦が超細巻きを丸かじりしている様子を想像すると、ほほえましいものです。

恵方巻の出発は、関西の花街でのお遊びからとか。検索すると諸説が出てきますが、いずれにしても、全国ブームになったのはコンビニチェーンの策略のようです。どこが?とまでは突き詰めませんが、確かに1月から「恵方巻」の幟は、あちこちのコンビニで目立っていました。

そのお宅から戻って、スーパーに寄って驚きました。いつもはお弁当やお寿司の並ぶコーナーが全て「恵方巻」!!年々その売り場の広さは大きくなっているように思えます。眺めてみると、何種類ものお刺身が巻き込んであるもの、ステーキやエビフライが巻いてあるもの、サラダ系も。お値段も1本3000円位のものまで。売り場には、「今年の方角は北北西です」などとありました。

こうなると嫌になってきます。恵方巻というグルメ、レジャー、イベント。先の老夫婦とは世界が違う。一袋100円のお豆だけを買って帰りました。

東京湾沿岸、海苔の産地であった土地の生まれの私は、運動会やお誕生日など、特別の日の海苔巻きを覚えています。普段使いの海苔は、いつもの缶に入っていて、ところどころ穴が開いていたりするお安いもの。海苔巻きとなると、母は高価な海苔を出してきて、それを丁寧にあぶり、使っていました。

酢飯と海苔のたまらない香りが家に満ちたものです。なかに入る卵焼きやシイタケ、干瓢、キュウリは細く切られて並び、母の手でご飯、具、海苔と一体になり、何本もが出来上がって包丁が入ると、その切り口は花が咲いたように美しく見えました。切りおとされた耳の部分は、横でじっと見ている私の口に入ります。ピンクの桜デンブが入れば、もう大喜び、海苔巻きにはそんな思い出がまとわりついているのでした。

だから、大売り出しの賑々しい「恵方巻」は嫌いです。買う気になりません。

でも、SNSを覗くと、あちこちのお宅でご自分の家なりの「恵方巻」を楽しんでいる様子がありました。家族でワイワイ作り、食べる、楽しさが伝わります。コロナ禍で楽しいことがない中、せめて恵方巻くらい楽しもう。黙食はここんところのお決まり事じゃない、と。

少々、天邪鬼のわが夫婦、豆まきを簡単にして、すき焼きにした夜でした。それにしても、絶対に売れ残るだろうと思うあの多量の恵方巻は、どう処分するのやら・・・です。