奈良の・・
奈良の鰻、奈良の庭木、奈良のおでん、奈良のしめ縄、「奈良の」と冠がつくと、なんとなくいい感じがします。これが地域ブランド力でしょうか?
年始にぶらりと出かけた奈良でたまたま食べたもの見たもの、大したことではなくとも「奈良の」冠で、人が勝手に想像を広げてくれるようです。
いえ、でも、実は大したものでして、「やっぱり奈良は凄い」と最後は思わざるを得ません。
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お正月の3日に、和歌山県紀の川市の家からノコノコと奈良へ出かけました。和歌山線に乗って、途中一回乗り換えれば、JRでそのまま奈良へと行けるのです。
目的は?いつものようにあまりありません。あえて言えば、前に食べたおでん屋さんに家人を連れて行きたかった。
そして、夫婦で今、ファンの志賀直哉の旧邸を訪ねたかった。というくらいです。従って、電車に満員の初詣客とは全く違う行動。駅を降りたら、春日大社や東大寺には目もくれず、まっすぐ高畑へと向かいました。
ここ辺りの家々の植木がきれいです。驚くほどの剪定をしてあって、木々はまるでげんこつを空に着き上げたかのように立ています。
あいにく志賀直哉邸はお正月はお休み。外から塀越しに見学となりました。
それにしてもこの辺りの家々の、お正月飾りは立派です。
以前、このまちを歩いたときに、門に飾られたあまりにも立派な正月飾りに、家人は驚いて写真を撮り、それが写真コンクールで受賞したという経緯があります。
あの家はどこだっけ?この辺りじゃなかったっけ?そんなウロウロ歩きが大好きな夫婦です。
いつしか、奈良町のエリアに入り込もうとしていました。そんなときにいい香りがします。
「鰻だなあ~」と夫。「奈良って鰻が有名?ってことはないよね」と私。とはいっても、あまりにいい匂いに誘われて、「活活亭」というお店に入ってしまいました。
一見、普通のお家です。でも鰻屋さんです。ここでおなかを満たしてはいけません、おでんが待っています。なので、一番安い、1000円以下のうな丼を頼みました。
お店の女性が「本当に鰻が少しですがいですか?」と正直顔で問いかけます。「本当にそれでいいですから」とこちらも真正直に答えます。
でも、通されたのはお庭の見える広い座敷。正月らしい花がきちんと活けられ、ビールも頼まないのに、まずはと鰻の骨の唐揚げが出てきました。
もうこれだけで、いい気分。東京でこの座敷を占領して骨を食べるだけで、席料1000円はとられますから。
やがて出てきたうな丼は、本当に鰻がわずかではあったのですが、タレと漬物とお吸い物で十分ご飯は平らげました。
さらにおせんべいと栗饅頭、土瓶一杯の新しいお茶が出ます。1000円以下のお客なのに、申し訳ないと思った次第です。
となりのお部屋は何やらお忍びのカップルのよう、ゆっくりお酒を飲んでいます。こういう空間があるのがいかにも奈良らしい。今度は夕飯を食べに、ゆっくり来ようと思いました。
奈良まちをうろついて写真など撮り、だんだん夕暮れに近づきます。いよいよおでんタイムです。
目指す「竹の館」というおでん屋さんに、一応電話しました。
「今日やっていますよね」「お正月はお休みさせてもろてます」「え???ネットでは年中無休、定休日ナシと書いてあったんですが」「うちはお正月だけは休ませてもろてます。もう50年そうしてます」「え、でもおでん楽しみに来たんですが」「市場も休みなんで、何もないですから。すんません。」
もうこうなったらあきまへん。ネット情報を信じた私が悪かった。
おそらくお店のおばちゃんは、自分の店がどんな風に紹介されているかも知らずに営業しているのでしょう。それがいかにも古のまちらしい。
「年中無休だけれど、お正月は休む」???というのがいかにも奈良らしいじゃやないですか。
夫とは、また来ようねと約束し帰ることにしました。(写真は11月に友達と行った時のものです)
帰りによった旧奈良駅舎の観光案内所。奈良の写真家・入江泰吉の写真集『昭和の奈良大和路』を見つけ、ページをめくりました。
昔の奈良はこんなだった、という驚きです。ビルもなければ観光客も少ない、のどかな田舎の姿がありました。
この日一日歩いて見え、確かにハードは変わったかもしれないけれど、人の心は昔からずっと変わらない奈良なのではないかと思いました。
おでん屋さんがやっていなかったからこそ、また奈良に行こうと思います。
鰻屋さんが今回はうな丼だったので、次回はあのお座敷でゆっくり鰻重と白焼きを熱燗でいただきましょう。
剪定した植木の若葉も見たい、お正月飾りの無くなった家々は春にはどんな佇まいを見せるのでしょう。
そして、入江泰吉の写真美術館にも行きましょう。
何か不都合があっても「いいわいいわ」と思わせる、また来るから、また来たいから、と思わせるのが土地の力、地域ブランド力なのでしょう。
戻ってから、「奈良で食べた鰻が良かったのよ。おでんもいいのよ」と報告すると、「そりゃ奈良だものね」と友達は勝手に想像しほめあげます。どういいかの多くはこちらは説明しないようにしています。
やはりそれなりの重みがある地域の力は、行って感じるしかありませんから。"