酒を造り、酢を造る。
㈱九重雜賀という会社の日本酒とお酢の工場を見学しました。和歌山は日本で一番お酢の消費が多いとか。その地で支持されているお酢屋さん。伝統的な酢蔵を見せてもらうのは希少な体験です。
お酢は酒粕から造るのですが、いいお酢のためにいい酒粕が必要と酒も造り始めた、というのですからさすがです。100年も使う木桶でコモをかぶって時を待つ、お酢の姿に頭が下がりました。
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九重雜賀(ここのえさいか)は、和歌山県紀の川市の企業。もともとは和歌山にあった酢造元で、1908年の創業。
ブランド桃「あら川の桃」で知られる紀の川市桃山に2014年移転されています。
100年を超える歴史の中で、お酢の原料である酒粕を、自社で造る。そして、食事に合う日本酒を造る。
そのために、1934年から日本酒の製造も始めたそうです。
細やかな手仕事に真摯に向き合う企業だからでしょう、そのお酒がまた上質のものができ上がり、数々の賞を受賞していきます。
上質の酒、上質の酒粕、従ってそのお酢は半端なものではないということになります。
紀の川市のお米を原料にしたお酒、麹のついた米を噛むと、いい甘味がします。
これが最後は酢にまでなるんですね。酒蔵の見学後、酢蔵の見学となりました。
創業から変わらない、酢の製造。それは30石(5400リットル)の大木桶が約40桶並ぶ静かな風景でした。
材料の酒粕は2年以上経って熟成したこげ茶色、これをお湯などで溶き、これまた100年前から絶やさず受け継いでいる酢酸菌をいれ、120日待つ。
さっきまでのお酒の白い世界と色が一変します。
桶には藁で作ったコモが何枚もかけられ、温度変化から守られる。
布団でくるんだ赤ちゃんのように、静かに発酵が育つのを待つのです。「静置発酵」というのだそうです。
木の蓋を開けると、38度~40度という桶の中のお酢の元から、もわっと湯気があがりました。
覗くと黒褐色の液が、とろりと眠っているように、かすかに起きて何か考えているように居られます。
座禅をしているようでもありました。
いまなお、こんな方法で本当のお酢を造っている企業があるなんて、驚きでした。
この日は特別に見学会が行われたので、利き酒や利き酢という趣向も。お酒は確かに美味しい。
見学し造っている人たちのお話をうかがった後だからなおさらでしょうか、有名な日本酒の産地の、有名なお酒と比べて抜きんでている気がします。
そしてお酢。毎日飲めば身体が喜ぶだろうなあ、というまろやかな味。
普通のお酢以外にも、これまた受賞作品の万能だし酢「お手間とらせ酢」「柚子 寿司召し酢」などのアイディア製品も揃っていました。
しかも瓶にかかったラベルに点字表記がある、すごいなあ。
クイズのように利き酒・利き酢をしながら、私たちはもっとお酒やお酢に繊細でなくてはいけないと反省します。
もっと敏感な舌を持たねば、こんなに苦労して伝統の製法で造っている職人さんに、そして酢酸菌に申し訳ない。
2時間いて感じたのは、社員の方々がとても仲がいい、家族も仲良くやっている、“うちの味”に自信を持っている、手を抜かない、ということでした。
そんな“気”のようなものが、お酒にもお酢にも伝わるのだと思います。
世の中ごまかしばかりの嫌なニュースが多い今、こういう企業にに出会うと嬉しくなります。私も正しく生きよう、と背筋が伸びます。
帰りがけに見つけた昔の金属の看板、桃畑との境に大事に飾られています。
「捨てられませんよね」と語る社長、社員の方が着る法被には「より良い酸を食卓へ」とありました。
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