金の繭

お仕事で

群馬県富岡市、かつて養蚕の盛んだった地で、現役の養蚕農家を訪ねました。

ストーブの焚かれた部屋で、お蚕さんの赤ちゃんがむしゃむしゃと桑を食べています。

宝ものを拝見するように、黄色い繭の並んだ部屋へ。「ぐんま黄金」という品種。

「金の繭なんて呼ぶよ。ほら、足も黄色い」蚕をつまんで見
せてくださった農家さんは、子どもを自慢しているようでした。
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昔は、数千軒あった養蚕農家がいまは数十件、希少な現場です。

観光用の見学施設では、蚕を何匹か見たことがありますが、やはり生産現場となると迫力がありました。

すぐ隣にも桑畑がある昔からの大きな養蚕用の家。

「お蚕さんはね、牛なんかと同じで、何頭って数えるよ」とここの農家のお母さんが話してくださいます。


お蚕といういい方も、頭という数え方も、かつて日本の繁栄と生活を支える大切なものだったなごりでしょう。

その、尊敬を持って呼ぶ態度は、お蚕さんの扱いにも現れます。


赤ちゃん蚕のいる部屋は、保育器に入った赤ちゃんがいるような温度管理された部屋。

床には消毒用の石灰がまかれています。ここに、今日来たばかりのチビちゃんたちがびっしり、桑を食べています。

「少しここは温度が高すぎるね。あれ?まだ、あがってこないね」お母さんが下の方を覗くと、これまた一段下にびっしり。

お蚕さんは上に上がってくる習性があるので、入荷?したお蚕さんが、上の新しい桑の葉の方に上がってくるのを待っているとのことでした。


何万頭というおびただしい数なので、つまんで移動させるわけにもいきません。

「結構、待つ、てこと多いですよ」と、修行に来ている地域おこし協力隊の青年が語ります。お蚕さんに人間が合わせる、が基本なのでしょう。

別の棟に行くと、ここはもう繭になっている部屋です。段ボールでできた小さな仕切の中に、白い繭玉が並びます。

よく見ると、たくさんのお蚕さんがまだしがみつています。自分が繭を作る場所を探しているのでしょう。

この時期になると、お蚕さんは桑を食べなくなり、モコモコ太っていた身体も少し縮み、茶色、飴色のようになってきます。

そして、「ここにする」と決まったら、段ボールの一つのスペースに糸をかけて自分をクルクルと包んでいくわけです。

その糸の長さは1200 メートルとか。つまり、この繭玉からスルスルと一本の1200メートルの糸が取れるのです。

卵からここまで約一カ月、意外に早い。農家的には桑の葉が採れる時期に、何度か繭を出荷できるということになります。

改良を続けてこういうやり方になったのでしょう。この段ボール製の繭の団地のような装置がすごい!

お蚕さんは、上っていく習性があるので、上の方に繭が集中する。

そうなるとその重さで、ぐるりと回転し、軽い方、つまり繭の少ない方が上になり、お蚕さんは上に向かい、空いている部屋にたどり着けるという仕組み。

効率的にたくさんのお蚕さんに、同時期に繭になってもらう装置「回転マブシ」というそうです。

「金色のがいるよ」ともう一棟を案内されました。急な階段を上った部屋には、たくさんの回転マブシが。

見れば、確かに黄色い繭です。お蚕さんを一頭お母さんが見せてくれました。金色のお蚕さんは足も黄色です。


「ほらね、黄色いよ」とお母さんが見せてくれるのですが、お蚕さんが元気に動くので写真が撮れない。

「ほらほら、こらこら」お母さんは、赤ちゃんをあやすように笑います。


珍しい金色の繭からは、輝く金色の糸が取れる。希少なものです。その繭をお母さんが分けてくれました。持っているだけで、幸せになりそうです。

「お蚕さんは手間がかかる」と語る農家さんですが、何十万頭かのお蚕さんをわが子のように愛情を注いでいる思いが説明から伝わります。


石油ストーブはつけっぱなし、そして空気を動かす扇風機も回りっぱなし。大事に大事に、広い広い家の二階を使って。

かつては、人間よりずっと良い環境の中で、お蚕さんを育てたのでしょう。

子どものように育て、その命をいただいて、生きていく。私たちはそういうサイクルの中で、暮らしているのですね。

この生産技術と、お蚕さんの文化が、何とか伝承されること願いました。

化学繊維の大量生産ととは違う、生き物との付き合いの中から繊維をいただくという手間暇が、私たちには貴重なことです。お蚕さんは、いろいろなことを教えてくれます。

帰りに寄ったあるお宅、近代的でおしゃれな家の玄関でお蚕さんが飼われていました。

ここのパパさんと子どもたちが、昨夜もこのお蚕さんが繭を作る様子をずっと見ていたそうです。


どんなことを話したのでしょう、どんな世話をしたのでしょう。富岡市では育てたい人には、こうした養蚕セットを配布しているそうです。

お蚕さんを飼って、繭にして行く時間は、現代の家族にはふんわりとあったかな時を紡ぐはず。私もお蚕さんと暮らしたくなりました。