飯山の時間
北陸新幹線が開通し、長野県飯山まで1時間40分で行けるようになりました。交通の便が良くなると、とかくまちの様子がガラリと変わるものです。
どうかしら?と出かけてみると、棚田はゆたかに輝き、映画『阿弥陀堂だより』に出てくるお堂回りにはコスモスがひっそり揺らぎ、千曲川はあくまでもゆったりと。
丁寧に人と付き合う人情に触れて、飯山の“ゆっくり時間”に湯あみをした思いでした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
飯山駅です。立派ではありますが、中には冷たさがありません。
仲間がトイレに行っている間、こんなテーブルで荷物の整理ができる。一見、無駄?なような場が暖かにあります。
ね、かわいいでしょう。
どう見てもカフェ、という感じの観光案内所もありました。用がなくてもふらりと入りたくなります。何でも来いという感じのカウンターのお嬢さんたちがまたいい!ポップにも、一生懸命に何か役に立ちたい、という雰囲気が伝わります。
まずは腹ごしらえです。小麦が貴重な時代にオオヤマボクチという植物をつなぎにしたという、その独特のお蕎麦と、上杉謙信が野戦食にしたという笹寿司を。
この郷土食について、きちんとテーブルに説明があります。
さらに、お店のご主人から食べ方の指導が。「掌に寿司をのせて笹を下に引くとご飯のところが浮くのでパクリと」な~るほど。
飯山在住の人形作家・高橋まゆみさんの人形館に行きました。野に生きる人々の普通の暮らしを人形にした、全国的に知られる作品です。ここの人形館の入り口に、植えてあるのがおや~~?
奥にあるのはコンニャク、手前は野沢菜。きれいな市販のフラワーポットではなく、暮らしの中の植物がガーデニングとして使われている。それだけで、ここが何を伝えたいのかが分かりますね。
知り合いの方が案内をしてくださいました。見渡す景色が気持ちいい~~!と思ったら、無電柱の道路です。さらっと気遣いをしている。足元には菜の花の芽がずらっと出ていました。
飯山の一つの顔である「菜の花公園」。緑の芽が出そろっているのは野沢菜、春一面に黄色く咲くのは野沢菜なんですね。地元の小学生も、みんながこの菜の花育てをしているそうです。春のここの千曲川はどんなに綺麗でしょうか。
秋は菜の花ではなく、田んぼが黄金色に輝いています。飯山ですから、飯、米にはこだわる。美味しいお米がとれるわけです。
立ち寄った農産物販売所。ここで東京の練馬区から移住してきたというご夫婦に会いました。作られたトマトを売っています。おいしかった~~。
たった200円の買い物のお客にも、「お芋たべてって~」とすすめる元気なおばちゃんがもてなしてくれます。
おばちゃんはどうやら明日は運動会らしい。うふふ。
さて、映画『阿弥陀堂だより』に出てきた、お堂を訪ねました。このお堂は映画のために造られたものですが、ずっと昔からここにあったような存在感です。
近くに落ちる栗がお供えのように置かれてています。畳の上のノートには、ここを訪ねた方々のメッセージが。驚くほどにたくさんの方が、毎日のように来ています。ここに座り、景色を眺めそれだけで帰る。そういう人が静かに訪れる、聖地のようなところなのでしょう。
お堂からの眺めです。東京の時間に追われる暮らしに疲れ切った女性が、ここでだんだん健やかになっていく。本当の生き方を夫婦が見つけていく、という映画。自然や景色だけでなく、ここの人が元気を分けてくれたのでしょう。
この景色を眺めている間、ご案内をしてくださった地元のとある方は、お堂を箒ではいています。大事なお堂に来たら、即、身体が動くのでしょう。シュツシュッというその箒の音を背中で感じながら、眺める飯山の景色です。
実は、この案内の方は、駅の観光案内所にたどり着いた一人の外国の若者を、「一緒に乗せてあげてもいいですか」と運んでいました。シュラフだけでやってきたカリフォルニアからの男性は、棚田の風景に何度も「ワンダフル」と言います。
彼が泊まれるように、山のロッジにテントを手配し、建てるのも手伝い、食べ物を買うお店にも案内し。そんなことをさらりとしておいででした。
彼に限らず、飯山の人は、何かしら教えてあげたい、世話したい、それも素朴にあったかに。という情に溢れているように思えます。
そこにいる人がみんな何かを伝え、何かに誇りを持ち、その自信あるものを他所の人にもおすそ分けしてあげる。それは自然体でささやかでいい。そういうことが出来る人がいれば、人口が少なくたってその土地は素晴らしいまちになる。
何もしない、自分の土地を大事にしない人が、多量にいたってしょうがない。数ではないのですね。
ということを、飯山で過ごしたほんの少しの時間で学びました。新幹線でサッとやってきて、そういうことが学べる地、飯山詣では東京人にとって大事な時間になるはずです。
“