「食」の誇りでおもてなし

ゆとりある記

栃木県那須町「わいわいフェア」に行ってきました。地元の「食」を発信する町民の催しです。

野菜の甘味が際立つトン汁、個性豊かな漬物のバイキング、手打ち蕎麦、ヤギのフレッシュチーズ、那須和牛串焼きなどを食べ、地元食材にこだわるペンションに泊まりました。

全てがおいしかったのですが、一番印象深かったのが那須の「食」を自慢する、自信一杯の皆さんの笑顔でした。


この催しは今年で4回目。那須の観光と食の連携を推し、那須の魅力と食材のおいしさを発信している「なすとらん倶楽部」が主催。

食べものだけでなく、手作りの陶器や手芸品、雛の吊るし飾りなどの展示も。

あいにくの冷たい雨でしたが、それでも集まってくる人たちが、出迎えるみんなと「食」を媒体に温かに交流です。

里芋ゴロゴロのトン汁、たくさんの野菜の旨みが一つになった都会では味わえないご馳走。「汁の甘さはね、新鮮な野菜の甘さだよ~」

地元の農家と契約し、蕎麦を作ってもらい、自家製粉して蕎麦にしている「清流の里」の高根沢さん。蕎麦を語ったら止まらない熱いお父さんに仕込まれた息子さん。蕎麦打ちが楽しくてしょうがない感じで実演です。

「家族みんなで、蕎麦を打ってお店やっている、今が一番幸せな時でしょうね」と語ります。こういう笑顔に会うと、本当に心からご馳走様と思います。

樽に沢庵を漬ける体験も。丁寧に教えていただいて2000円で樽ごと持ち帰り。いつも漬けているお母さん達が先生だから安心。

漬物バイキングのコーナーが人気。キクイモの甘酢漬けなんて珍しいものも。キュウリの古漬けも、漬ける人でまた味が違います。「漬け方を教えて~」とお客さんは食い下がります。

ぴかぴかの新米に漬物てんこ盛り!こういうものを食べている那須の子供達は旨さのわかる舌を持っているでしょう。もりもり食べていました。

泊まったのは「ゲストイン悠香里(ユーカリ)」。隠れ家のようなペンション、迷いながらも行く価値のあるところでした。

2年半前、千葉から移り住んだ野口さんという家族がやっています。千葉出身の私、野口智子にとっては、親戚のような気になります。

30代後半の(には見えない)ご夫婦と、4人のお子さんがみんなでもてなしてくれました。「那須はすばらしい食材だらけです。どうしても、ここの野菜や肉、乳製品にこだわってそれでお客様をもてなしたい」とオーナーの野口さんは語ります。

冬瓜とベーコンをあわせたお料理には、地元の農家に教わったという唐辛子味噌がアクセントに。

那須の和牛には、アスパラ菜、里芋、レンコン、黒紫のジャガイモなどなど、地元の野菜のローストがふんだんに。お肉と野菜が同じ存在感で。

こうしたお料理を、かわいい奥さん、お嬢さんが次々と説明して運んでくれます。朝ごはんのヨーグルトも5種類の蜂蜜も、パンも、元気一杯の野菜サラダも、なんておいしかったことか!

過去、各地のペンションで、レトルトのフランス料理まがいのものを出された経験を持つ私としては、ここまで地元食材にこだわって、それをおいしく料理してくれる宿に那須で泊まって、目からウロコでした。

もちろん那須の宿泊施設の全てがまだまだそうではないと思いますが、「悠香里」のような宿は確実に増えているようです。

珍しい野菜づくりにチャレンジする若い農家、チーズにこだわる若い酪農家、味噌屋さん、ヨーグルト屋さん、そんな人たちの輪も育っています。

観光地は何も、立派な施設や景勝、史跡がなくてはダメということはありません。そんなことに寄りかかって努力をしないなら、かえってこれからの時代に取り残されます。

地域に誇りを持つ人の存在こそが、これからの観光資源だと私は思います。

「ね、那須はおいしいでしょ」「ここの野菜はすごいよ」
「朝市も始めたんですよ」「がんばっているパン屋さんもあるんです」「子供がこっちの学校のほうが面白いって言います。家族とここに引っ越して幸せです」

こんな言葉に包まれて、おいしいものを食べることがどんなにすばらしい観光か!那須で「食」のおもてなしの原点を見せてもらいました。