皮むき間伐

ゆとりある記

少し前、福岡県糸島市の「NPOいとなみ」を訪ねました。山で密集するスギやヒノキの皮を、生えたまま剥いてツルツルにすると、木は枝を落とし、やがてそびえたままで乾き切る。軽くなるので伐って運び出すのに重機がいらない。皮むきは力がいらず、女性や子供でも楽しんでできる。この皮むき間伐を活動の中心にしている団体。主宰するご夫婦の笑顔が素敵でした。この秋、緑の都市賞 国土交通大臣賞を受賞です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

うかがったのは、今年まだ暑い9月のこと。私はこの賞の審査をする側でしたので、現地調査という名目で視察させていただきました。素晴らしい活動だと思ったのですが、賞が公になるまではこのブログにも書かずにいたわけです。で、晴れて、ご報告です。私が、視察報告した際のメモや写真をもとにしてあります。

JR筑前前原駅。糸島市は福岡県西部、海と山に挟まれたところ。JR筑琵肥線と国道202号沿線に市街地が。隣は福岡市、空港まで40分、博多まで35分。人口約10万人。移住者が増えているそうです。また、九州大学が糸島市と福岡市にまたがるキャンパスに移転しているとか。若者も多いのですね。

市街地から30分の森。10000平方メートルの市有林を、「いとなみ」が市民参加型で間伐、その材を活かしています。主宰の藤井芳広さんが、森で詳しく説明してくださいました。間伐ワークショップをやる際には、いきなり作業でなく、まず、森の大切さ、森の文化を伝えるところから話すそうです。

滋賀県出身、東京生活の後、朝鮮半島などを旅し、糸島に移住。2012年NPOを立ち上げ。「東京時代に皮むきに出会った!」とのこと。NPOのメンバーは40歳代、多様な人達15人です。

これが皮むきの様子。※下の写真は藤井さんからお借りしたものです。

皮むき間伐はスギ、ヒノキの外側の皮に、浅く切れ目を入れ、竹べらを差し込み、それを一気に上まではがします。チェーンソーを使わず、誰でもできる間伐作業。静岡県富士宮市で学んだそうです。「専門家でないから良かったと思う」と藤井さんが笑いました。

皆で一気にむくのは面白そうです。春から夏にかけての作業で子ども連れも多いとのこと。皮をむくと水分・栄養が上がらず、木の枝は落ち、木が枯れて日が入り、いい森になっていきます。この皮むき間伐をネットで調べて「やりたい!」という市民、企業などからの申し込みもあるそうです。

皮をむいたまま置いておくので、間伐後、伐って運ぶ手間いらず。貯木場もいらない。必要になったら伐る。乾くまで2~3年はかかるものの、日が入ればいろいろな植物が生えてくる。乾いた材は軽いので、のこぎりで切り倒せる。人力で運べる。重機がいらない。「最近はようやく理解が進み、地元の木、皮むきの木を高くても買いたいという人が増えているます」と藤井さん。

奥様の玲子さん曰く、「子連れでもいいですか?という問合せに、自信をもってOKと答えられます。女性でも、子連れでも森にかかわれてうれしい。自分にできる事があるのが。我が家の子は指導者ですよ」と、いい笑顔です。

木の皮をむいたあとに、木の香りのなか、ヨガをするグループも。軽いので、加工がしやすく、積み木やアート作品にもなる。奥様のイヤリングももちろん皮むきの木。福祉施設とともに玩具の商品化も進めているそうです。

駅前にはベンチがありました。漫画でデザイン募集を呼び掛けて、皮むき材でベンチを作成したものです。商店街にもありますが、これは観光協会前、小学生デザインの屋根付きベンチです。

皮むき間伐に参加した縁で、150年前の家に、皮むき材を使っているところにもお邪魔しました。もと九州大学生の松本崇人さんがが古民家改修中。今はシェアハウスですがいずれゲストハウスにするそうです。自慢の皮むき材の廊下は、20人が数か月かけてはったそうです。皮むきをしたことがきっかけで、意味のある廊下ができました。

藤井さん夫妻と、松本さん。皮むき間伐が取り持つ縁ですね。

藤井さんは行政や団体に、アポなしでどんどんプレゼンに行くそうです。今年、福岡市と30000平方メートルの市有林管理の協定も。こういう方たちの活動、繋がりが、森を守り、次世代へ渡していくのだと思います。

ここまで書いた私も、パソコンを閉じて、立ち上がり、皮むきをしに行きたくなりました。