松阪の味わい

お仕事で

三重県松阪の味といえば、牛。有名すき焼き店に人が押し寄せる印象ですが、そればかりではありません。

まちを丁寧に歩くと、メインにはなりませんが、へえ~と感心する味があちこちに。蜂蜜アイス、麹味噌、蒲鉾、駄菓子など。

地元の方と話しながらいただくと、「食べる」というより「味わう」感じです。高級牛肉をほおばるよりも、味わい深い思い出になりました。

松阪と書いて「まつさか」と読むのが正解。つい、関東人は「まつざか」と発音してしまいますが、地元ではさらに「まっさか」と「つ」が小さくなります。

ここで、厚生労働省 平成24年度新事業展開地域人材育成支援事業「三重県観光新企画づくり塾」というのがありまして、講師としてワークショップをやりに行ってきました。

伊勢神宮の式年遷宮を迎え、来訪者が多くなる三重県で、神宮参拝とセットで立ち寄る周りのまちの魅力を、どう磨いていけばよいのかというのが大きなテーマです。何箇所かで開催されますが、この日は松阪を担当しました。

ただすき焼きを食べるだけが松阪の楽しみ方ではないだろう。たとえば「女性の一人旅なら」「自然派ファミリーなら」「ゆっくり熟年夫婦なら」と、それぞれになりきって、街なかを歩いてみましょうというフィールドワーク。

これを私は「なりきりウォーク」と呼んでいますが、違う人になったつもりで歩くと、いつものまちからも発見がたくさんあるものです。タイトな時間でしたが、さまざまなお宝が見えました。

私は「ゆっくり熟年夫婦なら」のグループに入りました。先ずは蜂蜜屋さん。ここでは店内に何と蜂が飼われ、多様な蜂蜜が売られています。現場でいただいたのは「蜂蜜最中アイス」ほんわりとハニー味です。

「で、この蜂たちはどうやって生きているんですか?「蜂の巣の向こうに通路を作ってあって、外に出入りできるようにしてあるんですよ」とお店の人。アイスを食べている間お店の方とおしゃべり。

その並びにあった飴・駄菓子屋さん。おお!なつかしの昭和の雰囲気です。動物ビスケットや芋ケンピの量り売り。アンコ玉も一個から買えます。

「今でもここでおじいさんが飴を伸ばして作っているの。この容器?木の枠は直したけど、ガラスの入れ物は昔のままですよ」とお店の女性。

表通りから一本中に入ります。その昔、本居宣長が暮らした魚町です。麹・味噌のお店を見つけました。観光客らしき人たち(研修ですが)がドヤドヤと入ってお店の奥さんはびっくり!「ここは普段地元の人しか来ないら・・・」と。

でも、いろいろお話をしたくださいます。お嫁に来て初めて味噌作りなどをしたこと。麹室に入ると肌が本当にすべすべすること。今使っているレジは古いけれどまだ使えること。最近、塩麹ブームで麹がやたら売れること。近所の小学校の子供たちが見学に来てくれてうれしかったこと。などなど話はつきません。

ここで売っている「麹味噌」は普通の味噌より麹をたくさん使っていて、甘い味噌。松阪の田舎ではこの甘いお味噌でお雑煮をつくるとか。「普通のお味噌汁に少しこの麹味噌を加えるとほんのり甘くておいしいですよ」

それでは買ってみましょうとお願いすると、100g110円という安さ!「安すぎませんか?お土産品として売れば500円くらいで売れそう」というと「ええ?!だってご近所の人が買いにくるからこの値段じゃないと」とあっさり笑われてしまいました。

並びの蒲鉾屋さんでは、いわゆるさつま揚げを各種少量ずつ手作りです。様々買って、歩きながら食べます。こういうのがおいしい。

もと、お店だったのでしょうか、昔のショウウインドウらしきものにコスモスが活けてあります。お店をしていなくとも、歩く人を意識して花を活けてある。いいまちだなあ、と思いました。

本居宣長はかつて、このまちの道がうねうねと曲がっていると言ったそうです。確かに今も迷子になりそうな道が自然体で繋がっています。

その中にある暮らしに混ざり、ここならではの味に触れ、人と話すと、初めて松阪の素顔に触れた気がしました。松阪牛を食べなくとも、十分に、松阪は味わい深いまちです。