あずましい弘前

ゆとりある記

「落ち着く」「快適」「居心地がいい」「ゆっくりゆったり」そんな意味のある言葉「あずましい」を、弘前で知りました。

古い木造の小さな宿に泊まり、夜の「ねぷた小屋」の作業を訪ね、「けの汁」と「イカメンチ」で一杯。温泉銭湯で朝風呂、美しいりんご畑、お土産の「こぎん刺し」。津軽弁で熱く語られた、まちおこしと郷土自慢。そのすべてがあずましい、弘前の時間でした。

先日、弘前大学でスローツーリズムの話をしてほしい、とのご依頼で、うかがうと先ずは「津軽弁」というお弁当が用意されていました。分厚いホタテ、一気に違う土地に来たな、と思います。

私が話したあとのワークショップは、いわゆる“着地型旅行商品について”というか、“地域観光について”というか話あいです。青森県内から、すでに相当これらの分野で実践中の方々が集まりました。

グループのチーム名を決めての発表のとき、出ました!「あずましい」という言葉。心に残るいい言葉です。

ワークショップの後の交流会で、いただいたのは「けの汁」と「イカメンチ」。根菜や山菜を細かく切って味噌味で汁にしてある「けの汁」はヘルシーなもの。これは我が家でも作れます。「イカメンチ」はイカの足を細かく叩き、メンチにして玉ネギなどと混ぜて揚げたもの。お酒のつまみにかなりおいしい。これも今度作ってみましょう。

いい加減お酒を飲んだあと、うかがったのは「ねぷた小屋」。小屋といってもかなり大きく、この時期は夜な夜なここで「ねぷた」作りが行われるのだそうです。町内のものもあるけれど、私がお邪魔したのは歯医者さんたちのグループ。「歯医者の技術はねぷた作るのに何も役にたたなよ」なんて冗談を言いながら、みんなでゆる~く作業。

骨組みだけのねぷたに、私が「間に合うんですか?」と聞けば、「毎年、ギリギリになるとわ~ッと人が出て、何とかなるもんだ」とのこと。私は金魚ねぶたに色をつけさせていただきました。

泊まったのは「石場旅館」という木造のかわいいお宿。玄関の「ようこそ弘前へ」の言葉に、ここの姿勢が伝わります。宿に人を抱え込むのではなく、宿を基点に弘前を楽しんでほしいという、若いご主人、石場さんの考え方は素敵です。(写真左)今回の研修を段取ってくださった弘前大学院生の竹ヶ原さん(写真右)と記念写真です。

外国人のお客さんが多いというのが分かります。ぎしぎしいうふるい廊下、柱時計、畳の匂い、障子からの明り、すべてがなんとなくなつかしく、お母さんの掌に入ったような安心感があります。

お部屋係りのおばちゃんは、津軽弁でいろいろご案内くださいますが、こちらのヒアリングが追いつかず、ニコニコうなずくばかりでした。でも、この気取っていない接客がなんともくつろがせてくれます。

「もし良かったら朝風呂どうですか~」石場さんが昨夜のうちに誘ってくださったので、起き抜けに近くの温泉まで送っていただきました。弘前は温泉だらけ、車にいつも銭湯セットを積んでいて、気軽に入るのだそうです。

朝7時というのに、下駄箱には結構履物が。

すでに湯上りですっかりくつろいで、新聞全紙に目を通しているおじさん。このゆとりを東京人に分けてあげたい。

湯船ではおばあちゃんたちが朝のコミュニケーション。かけ流しのお湯のごとく、津軽弁が流れ続けます。湯上りのびん牛乳のおいしいこと。

そしてお宿で朝ごはん。ビジネスホテルのバイキングなど口に入れたくないようなおかずが多いものですが、ここの朝ごはんはすごいです。この宿にずっといたくなってしまう!基本、親戚が泊まりに来たからご飯作った、見たいな愛情を感じるお膳なのです。朝ごはんで宿のレベルが分かりますね。

帰りに寄った「こぎん刺し」の研究所。和装コートにぴったり合いそうな、珍しいボタンもありました。気の遠くなるような手作業でできています。

ね、あずましいでしょう。どれもこれもが特別仕立てではなく、弘前のいつもの姿。今頃は「ねぷた」が完成したかな?石場旅館では、誰かを温泉に送っているかな。どこかの家で今日もイカメンチをおかずにしているかな。

こんな弘前のさまざまなあずましいしつらえは、すべて、甘食パンのようななだらかなラインをもつ岩木山の創りだした時間なのかもしれません。

また行こう、と思わせる弘前です。