オンパクの力
2001年大分県別府市で行われた「別府八湯温泉泊覧会」(略してオンパク)、市民企画の体験するプログラムが市内各地で開催される仕組み。
この成功はそのノウハウが公にされたことにより、各地に浸透し開催されています。
その一つ、静岡県藤枝市の「藤枝おんぱく」の報告会に行ってきました。すごいパワー!オンパクは皆を元気にするようです。
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私自身、本当の大もとの“オンパク”を体験していませんし、別府のノウハウを伝授されて続いた各地の“オンパク”すら出かけたことがない。だから“オンパク”を語る資格はないかもしれません。でもその神髄はなんとなく分かります。
かつて、私が静岡県に住んでいた時に、伊豆の観光を何とかしようという場面がありました。2000年になる前、新世紀が近づいていたころです。それまでの団体中心の観光が廃れ、個人観光に変わったにも関わらず、観光業がそれに追いついて行ってない。
だから、お客様の方が新しい観光に目覚めて、伊豆より一歩進んでいるという状態でした。それまではホテルや観光施設、土産物屋が観光を牛耳っていたのが、もう“業“の人たちだけではどうしようもない。
それはそうです、そもそも観光は地域の光を観るわけですから、ホテルの中だけをキラキラさせても地域を磨いていなかったら、そこは魅力のないところになってしまいます。
ホテルの施設整備はお金をかけて突貫工事をすればいいのですが、地域の魅力は突貫工事できません。まして、人の魅力アップとなると・・。
それを、手間暇かかるけれども、突貫工事ではなくいま一度やり直そう、という動きが別府の“オンパク”だったのでしょう。
私も同時期に、伊豆で「温泉文化研究会」というのを立ち上げ、それまでとは違う温泉観光をみんなで探し創ろうとしていました。月に一回、様々な立場の人たちが集まって、実験をし続けました。
路地をゆっくり歩いたり、地元のお店、それもお肉屋さんや床屋さん職人さんなどを訪ねる。揚げたてコロッケを食べたり、
バリカンの使い方を知ったり、桶作りを見学する。それまでの観光施設によるのとは違う視点の観光でした。
温泉そのものも、共同湯に入って地元の人と語り合ったり、温泉療法、つまり健康や美容に近づく積極利用を進めたり、温泉場で生まれた文学や技術を学んだり。果ては浴衣とスリッパがユニフォームの温泉卓球大会をしたり、なんてことも。
みんなでかかると、地域の多様な資源が人も含めて発見でき、楽しみ方も発明できました。
一方、観光地ではないですが、静岡県掛川市で2001年に初めてやったのが「スローライフ月間」です。一カ月間の間に、市民が小さな体験型の催しを100以上企画開催しました。
靴屋さんから靴のお手入れを学んだり、お寺でコンサートを開いたり、煎茶の正しい入れ方を学んだり、子連れヨガをしたり、名産の自然薯でイモ汁を作ったり。
歴史的なお屋敷を使って、毎日「スローライフ・スクール」を開催したグループもありました。中心商店街では、各店、各個人のお宝を数十カ所で展示する街じゅう城下町ミュージアムとなりました。
まあ、一カ月にずいぶんの催しが詰め込まれましたが、これを企画運営し、参加者にもなっていった市民の皆さんは地域おこしの視点と発想に目覚め、実行する筋力と、ネットワークを身につけました。
私ですらこんなチャレンジをしていますから、この2000年辺りは、日本がファストライフからスローライフに変わるためにいろいろなことが起きています。
大量生産から少量多品種に、縦割りから協働に、東京から地方に、男性から女性に、と軸足が変わる時期だったのでしょう。
参加体験型の小さなことをたくさん、ネックレスのように催す、市民主体の催しや観光イベントが全国多発的に起き、着地型観光や観光まちづくりという動きも出始めました。
そして今、その“オンパク”は、各地に伝道師のような方を派遣し、そのノウハウを伝え、「○○オンパク」という名で、開催されています。一つの地域おこし・観光体質改善の手法として定着した感があります。ですから“オンパク”と名乗らなくても、オンパク流のやり方の催しが続出しています。
その伝授・定着させた努力をしたところが“オンパク”の素晴らしいところと私は思います。普通なら、成功したならそのノウハウは門外不出のように抱え込むのに、日本の、ある意味世直しのために、貢献していった姿勢がアッパレです。
しかも、それをちゃんとビジネスとしていったところが、今的です。昔は、成功事例を手弁当であちこち伝授する好々爺のような人がいましたが、それをちゃんと事業にしている。
催しの紹介と申し込みを受け付けるウエブシステムも構築し、それを貸し出している。いまや何をするにも欠かせないIT部分のことを、そのノウハウを他所が使いやすいように有料で使えるようにした。ここが、さらに全国の方々が“オンパク”を目指す所以でしょう。
ボランティアでボロボロにならない、ちゃんと儲けていくことをしているからカッコいいのです。元気になれるのです。
その“オンパク”をやった静岡県藤枝にいってきました。今年で2回目、50日間の間に75プログラムが開催されたそうです。もう、終わってからの報告会にだけ行くのも間が抜けていますが、それだけでも藤枝のパワーが伝わってきました。
藤枝は温泉観光地ではありませんので、「温故知新博覧会」と名乗り、“おんぱく”の言葉を使っていました。ガイドブックにはお茶作りの農業を抱える土地らしく、街道の宿場らしく、静岡という都市が身近にある地らしく、と、らしさがにじみ出たプログラムが並びます。
闘茶会に出たかったなあ、歴女の案内で街道を歩きたかったなあ、八百屋さんでスムージーを飲みたかった~、藤枝北高校の高校生が糀・発酵食品の教室も!?などなど。あら、行きたかった、と思えるものばかり。
報告によると、集客力のある大きなイベントもいくつかあったので、全体的には17000人の参加者が。そのうち市民企画運営の小さなプログラム参加は約2000人だそうです。
「少ないけれども、体験の時間を通して強烈に藤枝が好きになれば、リピーターになってくれる」と報告した31歳の青年は胸を張ります。数ではない質ということです。
でも、それだからこそ、小さくとも市民の心がこもり新しい発見がある催しだからこそ、マスコミが取材し、メディア掲載回数は56回もありました。全国放送のものもあり、経済効果を広告費に換算すると1億700万円にもなったそうです。
巨大なお祭りが終わった後の直会のような交流懇親会に出ていて、思いました。皆が親戚みたい、または同窓会みたい。でも年齢も職種も地域も違う人たちの輪。みんなが“やった感”でムンムンしている。人の繋がりとそのパワーに包まれて、いい温泉に浸かっているみたい。
今回私は、いま通っている和歌山県紀の川市の方々と視察に行きました。昨日その感想を皆さんが話しました。「私たちは私たちなりに、紀の川流にやろう!できる!」という言葉。
どうやら、“オンパク”パワーは紀の川にも伝わったようです。“