アワビのドブ漬け

お仕事で

鳥羽市の国崎は伊勢神宮に「熨斗アワビ」を献上している、アワビの産地です。ここで、贅沢にも生のアワビをキュウリやナスと同じように糠みそに漬ける、アワビのドブ漬けを食べました。

“旨み”とは、こういう味をいうのでしょう。日本酒を何合も飲めそうな、濃いおいしさでした。地元での昔からの保存法が、今や珍味です。では、熨斗アワビは?と興味は深まりました。


国崎(くざき)でアワビづくしのお料理を売り出すと聞き、記者会見の場にうかがいました。『○○づくし』というのはどうも好きにはなれませんが、その料理の中に「アワビのドブ漬け」がありました。「ドボ漬け」ともいう、つまりは糠みそ漬けです。

コース料理にはお刺身をメインに、アワビの天ぷら、アワビの粉が入っているという米麺など、様々でしたが私の心をつかんだのはこの漬物だったのです。

「昔は保存するのに、糠床にドボッと突っ込んで漬けたの」と、地元の女性たちは気軽にいいますが、これは値段的には最高級の糠漬けでしょう。アワビの旨みに、さらに糠の旨みが浸みていて大人の味。盛られた器(写真を見てください)にも、さらに感動!です。

さて、国崎がこれだけアワビにこだわるそのルーツはというと、はるか昔へと時は戻ります。
「二千年もの昔、倭姫の命(やまとひめのみこと)が国崎を訪れた祭に『おべん』と言う海女から鮑を差し出される。
そのあまりの美味しさに感動し、それ以来、伊勢神宮に献上するように命じられたのが始まりとされます。」
とここのホームページにはあります。

「おべん」はこのとき生ものでは悪くなるので、熨斗アワビにして献上するといったとか、以来、この地では献上熨斗アワビを作り続けているのです。(旅館にあった「おべん」さんの像。アワビを捧げ持っています)

大きな干瓢の実を薄く剥いて干し、カンピョウにすることを思い描いてください。これと同じく、肉厚のアワビを薄く剥いて長く長くつながったものにします。これを干して、生乾きの時に竹筒で熨して平らなものにするとか。

おめでたいものとして、熨斗袋の熨斗に少しのアワビが昔は本当に使われていました。今は模造の、薄茶色の紐のようなものが使われていますね。

その献上熨斗アワビ、本物を見せていただきました。旅館のロビーにうやうやしく飾ってあります。形や枚数やしばり方も、伝来の作法があるそうです。

これを年に数回、国崎の人はずっと作り、献上し続けているのです。国崎のアワビは肉厚、それを認められ献上している。献上以外に熨斗アワビは使っていないことに、この地の2000年ブランドのプライドがあります。

軽々しく熨斗アワビを他所に出したくない、という地元の方々の気持が話していると強く伝わってきました。「献上するものなんです」と。


しかし、干した薄いアワビです。噛み締めればおしいでしょう。ダシも出ると思います。乾燥したホタテ貝やノシイカのように、これで一杯飲めるように商品化してくれないか、なんていったらバチが当るでしょうか?

だんだん熨斗アワビを作れる人は、少なくなっているとのこと。アワビを採る人も、です。

観光資源として儲けるために、というより、国崎という地域を守り残していくために、熨斗アワビの商品化も有りなのでは、と思うのですが。

熨斗アワビをほんの少しずつ包装して、金粉を大事に食べるように、縁起のいいものとして、物語を大切に売り出せないでしょうか?

日本の熨斗、熨斗アワビ文化について、守り深める義務も国崎にはあると思います。

自分の結納に使う熨斗をここに来て作るとか。アワビを買って、ここで熨斗アワビを作って持ち帰る2泊3日とか。

熨斗アワビだけでもいろいろできそうです。大事なものを売り渡すのではなく、大事なものを守るために、底辺を広げることを考えませんか。

今、何かみんなで取り組まなくては。何かのきっかけで、全国で国崎の熨斗アワビを守ろう運動が起きるかもしれません。

高級水ナスの糠みそ漬けを、取り寄せて食べる人は多いものです。アワビのドブ漬けもそうとうな商品価値があると思います。

アワビづくし料理のサイドメニューに、こじんまりいるものではないと思いました。一度食べたら、アワビの本場にアワビのドブ漬けつくりに足を運びたくなるものです。

国崎の人が、アワビを愛し、アワビを誇り、みんながアワビ博士になるくらいになりたいものです。アワビの聖地になりませんか、国崎の皆さん!!!な~んて、ドブ漬けのおいしさから、つい興奮してしまいました。"