「蔟屋」の時間

お仕事で

蔟(まぶし)とは、蚕が繭になるときに足場にする、井桁状のもの。まちなかの空き家を「蔟」に例え、次々再生したいという願いで「蔟屋」というまちの宿が出来たそうです。あいにくの大雨の日、近くの洋品店で受付し、イタリア料理店で夕飯、バケツに落ちる雨漏りを聞きながら眠り、朝は縁側で地元の人に挨拶、豆からひいたコーヒーをたっぷり飲んで。ビジネスホテルに泊まるのとは、全く違う時間を過ごしたのでした。群馬県富岡市で。

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先ず、いきなり行ったのは洋品屋さんでした。泊まるのに洋品店?と驚くなかれ、この宿は「まちやど」であって、街全体を宿泊施設としてとらえ、街中でおもてなしするという視点に立っています。数人のお仲間で運営しています。だから、チェックインも、近くの洋品店でなのでした。フロント係でご説明ご案内いただいたのは、入山洋品店の入山寛之さん。服の着こなし方を説明するかのように、お宿の使い方をテンポよく解説いただきました。

同行の市役所の方がおでかけの間、私一人で、蔟屋を見学です。

50年以上前の古い梁や天井など、二軒長屋だったという古民家の名残がたっぷり。私たちが泊まる棟は、以前住んでいた芸者さんの名にちなんで「千代菊」の名がついています。古いながらも快適なビジネスホテル同様の湯沸かしケトルや電子レンジ、オープントースター、コーヒーセットなどがそろっていて、群馬ならではの「上毛かるた」やお絵描きグッズも。テーブルには蔟屋の想いが詰まったファイルが、「先ずは読んでね!」という感じでドンと置かれていました。

読もうかなあ~と思ったら、何だ眠くなってしまいました。雨音のせいか、暗めの照明のせいか。畳の上にマットレスを広げ、シーツを被せていると、このまま昼寝したらどんなに気持ちいいか、と、私の身体が吸い寄せられていきます。

いえいえ、寝てはいられません。小学校での地区の夏祭りを見にいかねば。「雨でもやるのかね〜」なんて言いながら、役所の方に連れていっていだきました。臨時の駐車場、ずぶ濡れで車の整理をしている地元の方々に頭が下がります。

飛び込んだ雑貨屋さんには、自家製梅干しが梅酢ごと売られていたり、試食があったり。以前、このお店で箒を買ったこと思い出しました。お店の方とひと話。田舎のコンビニはホッとします。あれ?雨が小降りになってきました。子供たちは濡れても盆踊りする気満々。おばちゃんたちは花飾りもあでやに、フラダンスを踊る気満々。みんなの開催決行の思いが伝わり、中止を口にした私は反省です。

夕飯は、蔟屋近くのイタリア料理居酒屋店「イル・ピーノ」、ここも蔟屋運営のお仲間のようです。数人食事仲間が増えて、ピザやワインやをどんどん口に入れているうちに世は更け、「今夜、竹燈籠を作るワークショップがある」と入山さんに伺っていたことをすっかり忘れてしまいました。

それにしても、このお店。お料理ができるたびに、自慢そうに運んできてくれます。「ほ〜らできたよ、美味しそうでしょう〜」と言いたげな運び方。一方、お客様とお友達のように話しているここの奥様。我がチームの市役所の方とも、ここのお嬢さんのことで話が膨らみます。何だか街が、おっきな家族のように思えてきました。

この日はラッキーにも、「雨漏り」というのが体験できた夜です。気づくとバケツに2センチ水が溜まっていました。一緒に泊まってくれた市役所の女性と話に夢中になり、雨漏り観察を怠ったのが後から悔やまれましたが・・・。

朝、ガラス戸を開けて路地に面したちいさな縁側に出ます。まだ7時なのにもう陽が照っている。昨夜の雨は何処です。小さなシャベルと軍手を持った男性が道を歩いてきました。日曜の朝なのに草取りでしょうか。「おはようございま~す」私も彼もご挨拶。するとまた一人、同じ道具を持って。で、また、「おはようございま~す」地域の草取りの日なのかも、、、。縁側のご挨拶で何だか嬉しくなって、部屋に戻ると、あら⁉️ 私、前髪にカーラーを巻いたままでした。

役所女子が豆をゴリゴリして、コーヒーを淹れてくれます。蔟屋の隅々に香りが漂います。さあ、たっぷりゆっくり飲みましょう。

チェックアウトに入山洋品店を訪ねると、昨夜、子供たちが作ったという竹燈籠が並んでいました。ここは洋品店なのに、竹細工ワークショップも、週一回の飲み会も、パンの販売も行われるのだそうです。

入山さんとは昔からの知り合いのような気持ちに。富岡の街とは、親戚の居る街のような気持ちになって帰ってきました。入山洋品店で買った、サッカー生地のエプロン、毎日つけるたびに入山さんの笑顔を思い出します。