人間寒ざらし

ゆとりある記

栃木県那須町で「寒ざらし」体験をしてきました。寒中に水や風、雪に布や食べものなどをさらし、アクを抜き、旨みを増す、昔からの暮らしの知恵。主は幻の「寒ざらし蕎麦」をいただくことですが、その前に“寒”を楽しもうというわけです。

雪が積もり寒風の吹く冬の牧場へ出向き、雪原に大の字になって寝てわが身をさらす気持ちよさ!年に一度は人間寒ざらし、クセになりそうです。

企画したのは長年おつきあいしている「なすとらん倶楽部」、那須町全体を“食”と“農”で盛り上げようとしている団体。これまで「な・す~ぷ」や「なすべん」「おいしい那須暦」「レストランなすとらん」など、他地域から視察が来るヒットを飛ばしてきました。

いよいよ地域観光メニューに着手、名付けて「おいしいツーリズム」その1回目が「那須の寒ざらし」でした。寒いから人は動かない、のではなく寒さの楽しみ方を知らないだけ。寒さを真正面からメニューにしようという、英断です。

集まった15人は、先ずはレクチャーを受けました。昔の那須では、みんなちゃんちゃんこを着て、大きな厚いネッカチーフをかぶって手も中に入れて歩いた。長靴の中に藁も入れて暖かくした。雪に埋めた野菜は甘さを増す、寒の水で餅をつけば虫がつかない。寒のコンニャクはおいしい。寒縮みホウレン草や寒キャベツは旨い。など、酪農家の女性が寒語りです。

そして、いよいよ寒を感じに高原の牧場へ。バスの中では、鼻水を拭くティッシュや凍えないためのカイロまで配られます。真っ白な牧場で、自由時間。お好きに自分を“寒ざらし”してください、というわけです。お隣にいたペンションの男性と手をつないでせ~の、でドサッ。雪にひっくり返りました。

気持いいーーー。いつも景色はビルに囲まれ、部屋も小さなところにいると、こうして周りをさえぎるもののない中で
空を見上げて寝転ぶのが開放感です。少し陽のさす空から雪がチラチラ、開いた口に落ちてきます。

雪に寝ながら見える世界がおもしろい。あっちでも、こっちでも、ゴロンと人が寒ざらしになりました。

凍死しない?程度の時間で立ち上がり、今度はコーヒーブレイク。霜のたまったテーブルで飲む熱いコーヒーがおいしいこと。

冷えた耳やホッペがバスの中でジンジンします。寒いと暖かいとを、繰り返すのは肌によいとか。バスの中から見える大木に寄生したヤドリギ、これも真冬だから観察できるもの。

途中寄った足湯、濡れた手ぬぐいがなんと凍って“刀”に。しっかり気温は零下なのです。

最後にお待ちかねの寒ざらし蕎麦の登場。「なすとらん倶楽部」メンバーの「清流の里」というお蕎麦屋さんでその説明をうかがいました。水温が5度以下の水に1週間蕎麦の実をさらし、その後、寒風にさらして干し続け、水分を15%以下までにしてから粉に挽くのだそうです。

干し広げた蕎麦を風に当てる道具は手づくりの木製トンボ、「これで毎日蕎麦を天地返しして、乾かすわけ」苦労話はつきません。寒さや風を味方にするには人の努力が欠かせないというわけです。(写真はこのお店の主と息子さんが蕎麦を清流に浸けるけているところ。説明用の写真を複写)

そうして食べた寒ざらし蕎麦のおいしかったこと。香りと旨みが、経験したことのないくらい濃い。一口で、顔中に蕎麦の香りが満ちます。蕎麦がき、蕎麦がゆ、すべてがすばらしいものでした。

加えて美味しかったのが、寒の時期の甘味ののった白菜の漬物、甘味の増した大根・里芋などの煮物。お店のお母さんの手づくりの味は、しっかり寒を活かしていました。

こうなると“寒”はありがたいもの、私にたまったアクは抜け、蕎麦が身体の中を清め・・・です。うん、あとは寒仕込のお酒があれば、ですね。

ヤワな東京人に豪雪体験はいきなりは無理、近場の那須などで“寒”体験くらいからお稽古して、だんだん自然と寄り添えるまともな大人になっていければと思いました。(写真のお土産も一杯いただきました)

このツーリズムの報告も含め、恒例の「なすとらん会議」を3月2日(金)に開催します。皆さんお運びくださいね。
http://nasutoranclub.tea-nifty.com/blog/2012/02/2012-2eda.html"