なすとらん会議
栃木県那須町で「観光と食と農、地域連携フォーラム“なすとらん会議”」がありました。野菜と酪農と観光の町・那須。まち全体をレストランとしてとらえようと、町民が“なすとらん倶楽部”の名でまちづくり活動をしています。
その倶楽部主催のシンポジウムで、パネリストの酪農家の女性が強調した言葉は「信頼そして自信と誇り」でした。地震の前、3月8日のことです。
そもそも、私が那須町と関ったのは6年前のこと。国交省の「食文化を核とした観光的な魅力度向上による地域活性化調査」という長い名前の事業でです。そのなかで、町民の方々が集まってわいわい話す「わいわい会議」ができ、その拡大版の第1回「なすとらん会議」が開かれました。
その後「なすとらん倶楽部」という組織ができて、「なすとらん」というレストランも開設。観光と食と農の連携をテーマとした会議は、毎年町民の手づくりで行われています。
農業と観光が基幹産業の町ですから、倶楽部員のほとんどは何らかの形でそれらに関っています。これからの観光は、物見遊山ではなく安心安全な那須の野菜・乳製品を味わうこと!と早くから皆で確信してきました。
今年の会議もあらためて、その意を強くし、農を活かしたツーリズムも始めようと盛り上がりました。観光施設の方、酪農家の方、地元野菜を活かすホテルの方、なすとらん倶楽部の会長がパネリストになったシンポジウム。コーディネーターの私は、活動で何が一番大切か?その言葉は?と質問しました。
ギブ&テイクではなく徹底して「ギブ&ギブ」だと語る方、「スローフードの追及」「連携、和」など、いい言葉が出ました。なかでも、印象深かったのが酪農をしている女性の発言でした。
彼女は自分の活動を紹介するものとして、実物大のウシの絵と子ウシにミルクを飲ませる時の大きな哺乳瓶を持ってきてくれました。生き物の世話をしながら、栄養のある安全なものを生産することはどんなに楽しいことか!を活き活きと語ります。
酪農体験をしにくる子供たちは、心からありがとうと感動して帰っていくとのこと。娘さんが結婚し、結婚相手がチーズの専門家であるため今度はチーズ工房も作ると張り切っていました。
ストレスと疲れで贅肉で、愚痴を言っている都市の中年女性たち、そんな人たちとは正反対のシャープで元気な姿です。酪農の仕事がどんなにキツイものか・・・私にはできないといつも思うのですが、彼女には信頼を勝ち取った自信があるのでしょう。誇りをもって酪農をしていることが、力強く伝わってきたものです。
参加費800円と有料にも関らず280人が参加。会場には、遠く新潟県胎内市から米粉でまちおこしをしているメンバーも。これまた、キラキラ笑顔で発言。その後の試食パーティーも、おいしく楽しいものになりました。
と、このことをブログに報告しようとしていたのに、震災です。福島の酪農家は誇りのミルクを捨てることになりました。近くの那須町の同じ農業従事者はどんな気持でいるでしょう。
信頼・自信・誇り、とのべた彼女は、同じ牛飼いとしてどのくらい涙したでしょう。野菜やウシに何も罪はありません。
今、那須では被災した方々を宿泊施設で受け入れを始めているとか。那須町そのものも建物が結構被害を出しています。また、栃木県とはいえ、風評被害が農業・観光に大きく影を落としています。
7年積み上げた“食”を中心にすえた農と観光のネットワーク。この人の絆は強いです。会議で出たすばらしい言葉、信念を今こそ大切に、ゆっくりと進んでいきましょう。なすとらん倶楽部の底力を、見せようじゃありませんか。
また、おいしい野菜を食べに行くからね。素敵な笑顔に会いに行くからね。
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