知恵と技の地「井波」

ゆとりある記

昔、家には床の間があり彫り物や花が飾られ、凝った欄間もありました。私たちには、普段の暮らしを美しく飾り楽しむ知恵や技があったものです。

富山県南砺市井波、木彫のまち。井波彫刻の象徴である瑞泉寺を中心に石畳通りが伸び、まちにはトントンという木彫りの音があふれています。

道も家も店も、知恵と手仕事の技が随所に。自分の100円ショップ暮らしが恥ずかしくなります。

瑞泉寺は1390年に建立、北陸最大の木造建築。浄土真宗発展の拠点となってきた寺です。この土地にこれほど立派なが?と意外な驚き、しかも私にとっては日光東照宮の木彫以上のものを見せてもらった印象です。

ここに昔集まった職人が井波彫刻の発祥となりました。門前の八日町通りには、木彫の工房・店が今も並びます。出来上がった木彫品をお土産物で売るまちでなく、本当に作っているところが圧巻です。

一枚の絵から、それをノミ一つで立体感ある欄間に仕上げる、その行程は見ていて飽きません。というより、人間て、すごいんだと実感します。

11月12・13・14日開催の「スローライフ・フォーラムinとなみ野」では、13日にここで分科会があります。テーマは「美しく楽しく過ごす技と祭りと味と」。

この辺りには、地区ごとにちがう民謡があり、立派な獅子頭が伝わり、お正月には天神さまの彫刻を飾る習わしも。水がいいので蔵元もあり、産物の里芋も今が食べごろというわけです。

分科会パネリストの岩倉雅美さん(井波彫刻協同組合理事長)にお会いしました。木彫家となれば、そうとう気難しい方かと思ったらなんともチャーミングでスタイリッシュ。

もともとはデザイナーになりたかったのだそうです。「井波の彫り士は、お客さんから注文をとり、打合せして、欄間や床の間に飾る‘天神さん’をつくるので、無愛想な人はいないです。セールスマンから、最後の荷物の発送までやるんだからね。ははは!」とのこと。

「新しい、現代アートみたいなことにも挑戦してますよ。そういうところから新しい技術が開発されるから」

今や、欄間も床の間も、手技でこしらえたものもないお手軽なんちゃって都会暮らしをしている身には、つい、たじろいでしまう岩倉さんの姿勢です。「暮らしを楽しむには、好奇心だね」この言葉が残りました。